小泉環境相は、ニューヨークで開かれた国連の会合で「気候変動との戦いを、楽しくクールにセクシーにやろう」と発言した。これは環境行政をミスリードする重大な発言である。2015年4月19日の記事を再掲する。
IPCC第5次報告書のSPM(政策決定者むけ要約)は、マスコミ受けをねらって「セクシー」に誇張されている。たとえばSPMには、2100年までに地球の平均気温が2℃上がると多くの動植物が絶滅するかのような図が描かれているが、人類が1970年から今まで行なってきた大規模な環境破壊は、4℃以上の気温上昇に匹敵する。
もちろんこれは、温暖化を放置してもいいということではない。CO2の排出量を抑制する努力は必要だが、日本はすでに世界一の省エネ先進国である。残るのは再生可能エネルギーの固定価格買取のような高コストの対策だが、こういう方法でCO2を1%減らすには約1兆円かかるという。
だから今後、日本政府がCOP21に向けて2030年までのCO2の削減目標を出すとき必要な予算は、EU並みに1990年比40%の削減を行なうには57兆円、アメリカ並みに2005年比で30%としても36兆円かかることになる。これを15年で割っても、EU並みの対策を実施するにはGDPの1%近いコストがかかる。
環境保護派は「省エネでコストが下がる」とか「環境投資で成長できる」などという夢を振りまくが、日本ではそういう低コストの温暖化対策はやり尽くしているので、残っているのは経済的にマイナスになる対策だけだ。唯一経済的にプラスになる温暖化対策は、原発を再稼動することである。
地球温暖化は、こうした環境と成長のトレードオフを考える経済問題なのだ。政府では「20%台の削減目標」という方向で調整が行なわれているようだが、これだとコストは20兆円以上かかる。これはクールとはほど遠い地味な利害調整であり、再エネのように楽しい部分だけ食い逃げすると重い国民負担が残る。
政府の目的はCO2濃度ではなく、ましてその問題をセクシーに演出することでもない。費用対効果を客観的に評価し、国民の快適な生活を守ることだ。ゼロ成長に近い日本で、さらに成長率を下げる環境政策に、国民の合意は得られるのだろうか。
追記:小泉氏の発言は次の通り。
In politics there are so many issues, sometimes boring. On tackling such a big-scale issue like climate change, it’s got to be fun, it’s got to be cool. It’s got to be sexy too.
日本語では
政治には非常に多くの問題があり、時には退屈です。気候変動のような大規模な問題に取り組むには、楽しく、クールに、セクシーにやるべきです。
意味不明だが、「退屈な問題は避けてセクシーなことだけやろう」としか解釈できない。