ドローン襲撃に見る危機管理の甘さ --- 井本 省吾

35年ほど前、日経ビジネスの記者をしていた当時、防衛庁(現防衛省)参事官だった故・岡崎久彦氏を何かのインタビューで訪ねたことがある。


驚いたのは、六本木にあった防衛庁の門をくぐる時も、それ以降も岡崎氏の部屋にたどり着くまで、防衛庁の職員や門を守っている自衛隊の隊員から、一度も誰何されなかったことだ。

もし私が暗殺者なら、簡単に目的を達成できた可能性が高い。たまたまだったのかも知れないし、参事官レベルだから防備が弱かったのかも知れない。防衛庁の首脳の部屋はきちんとした防衛体制ができていたのかも知れないし、今はもっと厳しいチェックや監視の仕組みができているのかも知れない。

しかし、首相官邸へのドローン襲撃事件を見ると、今もそれほど進歩していないという印象を受ける。政府中枢が、これほど外敵の攻撃に脆弱なことが白日のもとにさらされたのだ。

警備が甘い社会は良い社会である。カギをかけずに暮らせる安全な町は素晴らしい。しかし、世の中はそんなに甘くない。首相官邸へのドローン侵入は、多くの日本人をひやりとさせた。

北朝鮮や中国、あるいはイスラム過激派などのテロリストが日本の危機管理の脆弱性を知り、日本の中枢部を襲う計画を立てる誘因にすらなりうる。

多少窮屈な社会になったとしても、安全保障の基盤強化は図らねばならない。

首相官邸のみならず、重要な役所、原発などの施設の防備は今以上に固める必要がある。

脇の甘い防備体制は米国頼みの防衛意識が災いしているとも言える。国家は自分で守るという意識を国民各層が持つよう、学校教育から正す必要がある。重ねて言えば、それは窮屈な社会を生み出す恐れもある。が、安全保障のため、それはある程度甘受せざるを得ない。世界ではその方が常識なのだ。

リスク管理、危機管理のできていない国家は滅びる。官邸へのドローン侵入がそのことを気付かせたとすれば、災い転じて福となす効果があったとは言える。


編集部より:この記事は井本省吾氏のブログ「鎌倉橋残日録 ~ 井本省吾のOB記者日誌」2015年4月27日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった井本氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は鎌倉橋残日録 ~ 井本省吾のOB記者日誌をご覧ください。