第2次世界大戦が終結して70周年という節目に、安倍首相が米議会の上下両院合同会議で演説いたしました。かつてフランクリン・ルーズベルト米大統領が日本への攻撃を議会に要請した場所での、歴史的な演説となります。過去には首相としては吉田茂が1954年、安倍首相の祖父である岸信介が1957年、池田勇人が1961年に行ったものの、上下両院合同会議では初めて。スタンディング・オベーションは、この方によると13回だったようです。詳細は既報の通りでしょうから、米国メディアの扱いをご紹介しましょう。
▽ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)紙
「安倍首相、米議会での演説で貿易協定の必要性を主張(Japan Prime Minister Shinzo Abe Argues for Trade Deal in Speech to Congress)」
→米議会で紛糾するTPP推進を主張したと伝え、賛成派と反対派の議員の声を紹介した。また、安倍首相の「日本の農業は分岐点に立っている。生き残るためには、今こそ変わらなければならない」との言葉を引用し、農産物で大きな妥協を見出すことを確約したとも報道。TPPを推進する上で「太平洋のマーケットで、我々はブラック企業や環境への責任を見過ごすことはできない」との言葉も引用している。中国の言及は一度だけで、成長著しいアジア地域の一国として紹介したのみとも伝えた。
余談ですが、ミシェル夫人は公式晩餐にタダシ・ショージをまとって出席。
(出所:YBF/Reuters)
▽CNN
「安倍、米議会演説で貿易協定と強い日本を強調(Abe pushes trade deal, strong Japan in speech to Congress)」
→TPPの他、太平洋戦争での戦没者に対し「永久に哀悼を捧げる(eternal condolences)」を表明したと報道。安全保障面の役割拡大にも触れ「新たな旗印は、海外協力を基本とした積極的な平和貢献である」との発言を紹介した。
▽ニューヨーク・タイムズ(NYT)紙
「安倍首相、貿易協定で詳細言及を回避(Shinzo Abe of Japan Avoids Specifics in Speech on Trade Accord)」
→アベノミクスを通じた経済改革で「飛躍的進歩(quantum leap)」を遂げたと自画自賛した一方、TPP懐疑派に対し具体的な譲歩案を提示しなかったと報道。
▽ワシントン・ポスト(WP)紙
「米議会演説で、安倍首相は日本の積極的な役割を説明(In speech to Congress, Japan’s Abe outlines more assertive role for nation)」
→長きに渡る同盟国としての存在感を強調しただけでなく、TPPを通じた新たなパートナーシップに言及したと報道。昭恵夫人が臨席するなか、カリフォルニア時代を懐かしむ場面もあったとのエピソードも付け加えている。
▽Yahoo! News、APを記事を掲載
「安倍首相、第2次大戦戦没者に哀悼を表明(Japan PM offers condolences for WWII dead in historic speech)」
→一般市民向けのポータルサイトなだけに、貿易ではなく第2次世界大戦での歴史認識に注目した記事を引用。大戦をめぐり「永遠の哀悼を捧げる(eternal condolences)」を表明したと報じた。また「TPPは経済的恩恵を超え、安全保障に及ぶ。戦略的な価値は素晴らしい(awesome)。我々はその点を忘れるべきではない」との安倍首相の言葉を引用した。
——TPPがそろいましたが、個人的には歴史認識をめぐる言葉としては「悔恨の念(repentance)」や「痛切な反省(deep )」ではなく、「永遠なる哀悼を捧げる(eternal condolences)」を選んで報じていた点が興味深かった。「永遠」との形容詞が加わっているとはいえ、アメリカ人は「謝罪」や「反省」より、戦没者を敬う言葉に共感を得たように読み取れませんか?
上記のメディアはそろって、慰安婦問題にも触れています。韓国系アメリカ人が米議会前でデモを展開するなか、新たな謝罪を口にしなかったと報道。一番辛辣だったのは安倍首相とオバマ米大統領の共同記者会見で慰安婦問題を真っ先に質問したAPとNYT紙で、恒例のマイケル・ホンダ議員(民主党、カリフォルニア州)の名前も登場させていました。
(カバー写真: WSJ/Agence France-Presse/Getty Image)
編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2015年4月29日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった安田氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。