私のオフィスや自宅には、ほぼ毎日献本をいただくが、たまに『大東亜戦争で勝利したのは日本である』という類の自費出版の分厚い本が来る。ほとんどはゴミ箱に捨てるのだが、たまに読んでみると、妄想だけで何百ページも書ける思い込みの強さに感心する。
本書に感じたのも、同じ印象だ。タイトルには「戦後史」と書いてあるが、史実は何も出てこないランダムな雑談である。ベースになっているのは『永続敗戦論』だが、これは白井氏も私の批判を認めているように、安倍首相のいう「戦後レジーム」と同じで、GHQのつくった憲法が改正できないために占領統治のような状況が続いているという認識である。
これは珍しくもない話だが、違うのはここからだ。安倍氏は戦後レジームを脱却するために憲法を改正しようとしているが、白井氏や内田氏は、なぜか「永続敗戦」状態の原因になっている憲法を守れと主張し、集団的自衛権を否定する。その論理がわかりにくいが、会話をそのまま引用してみよう。
内田 安倍首相の「戦後レジームからの脱却」路線は、どこか破局願望によって駆動されているという印象を僕は抱いています。このあと仮に尖閣で日中間で偶発的に軍事的衝突があったら、安倍首相はすぐに国家安全保障会議を開いて、安全保障に関する全情報を特定秘密に指定して、報道管制を敷くでしょう。国会も召集されないし、メディアも何も報道しない。(p.121)
白井 自衛隊員から犠牲者が出ることになる。その棺に日章旗が被せられて羽田に帰ってくる。そこで首相として鎮痛な面持ちでスピーチをしてみたい。厳粛そのものという雰囲気の中で。このシーンは、たしかに政治家のキャリアのハイライトになるでしょう。[安倍首相が]ほんとうにやりたいのはこれだと思います。(p.130)
内田氏は、集団的自衛権の目的は戦争を起こす「破局願望」だと論じ、首相を「インポ・マッチョ」と罵倒している。白井氏は安倍首相は自衛隊員の死を願っていると明言している。これは民間人なら、名誉毀損で訴えられてもおかしくない。
全編こういう妄想で、史実も論理もないまま話があちこち飛ぶので、飲み屋の与太話を聞かされているような感じだ。印象的なのは、左翼もここまで墜ちたのかという感慨である。『戦後リベラルの終焉』の具体例を見せてくれる点では、貴重な左翼の化石だ。