日産とルノーの将来は離婚調停準備も選択の一つ

岡本 裕明

フランスの文化には多くの日本人が憧れ、フランス人は概して日本びいきが多いとされています。日本のアニメの欧州における中心的盛り上がり国としても日仏の関係は築き上げられています。ビジネスシーンを見ても日本ではフランス料理やワイン、デザイナーズブランドなど多くの消費者にとって身近なものが溢れています。


その中で自動車という巨大産業にも日本とフランスの関係はしっかり作り上げられてきました。日産自動車とルノーであります。いや、私はルノーというより、ルノーのカルロス・ゴーン氏といった方がよいと思っています。1999年、倒産の危機に瀕していた日産自動車とアライアンスを組んだのはルノー。そこではルノーが日産の株式を44%、日産がルノーの議決権を有さない株式を15%所有し、実質的にはルノーの連結子会社として再生を図るものでありました。そこに送り込まれたのがカルロス・ゴーン氏であり、氏の日産再生術は日本の企業文化にメスを入れることになりました。

工場閉鎖、下請けとのチェーンリンクの見直し、激しいコストカット、組合問題の対処など日本人経営者ではできなかった数多くの英断を施しました。一方、ゴーン氏は切るのはうまいが作るのは出来るのか、と揶揄されましたがその後、ヒット作を飛ばし、日産は見事にリバイバルしたのでありました。

かつてトヨタと双璧だった日産の凋落はバブル経済崩落の象徴的現象として捉えられていたことを考えればこれだけ貢献したゴーン氏への報酬が年10億円程度で収まっていることは北米のレベルからすれば日本と日産にとって笑いが止まらない話であります。

個人的には一番安堵したのは当時の銀行ではないでしょうか?倒産寸前になるまで日産を経営的に支えきれなかった日本興業銀行の責任は大きく、現みずほ銀行はゴーン氏に頭が上がらないどころか、気持ち的には銀行がその報酬の半分を持ってもよいぐらいの貢献であったわけです。

それから15年。最近の日産自動車はやや元気がないとされています。ヒット作も少なく、全体に小粒な感じが見て取れます。それはゴーン体制もこれだけ長くなるともはや、経営への刺激が効かなくなってきているのでしょう。これだけの巨大企業を長年に渡り支配し続け、且つ、変化の激しい時代に先手先手の攻めをし続けるのは至難の業であります。

懐刀、あるいは主要ポジションの幹部が次々と日産を去ったニュースが昨年話題となりました。あるいは日産はルノーを食べさせているという親子逆転現象も伝えられています。

そんな中、ゴールデンウィークの谷間にフランスからとんでもないニュースが飛び込んできました。それはフランス政府がもつルノー株式の議決権が2倍になるというものです。これはフランスで2014年に発効したフロランジュ法を適用したいフランス政府となんとしてもそれを阻止したいルノー経営陣の間で戦われたプロキシーファイトでした。

株式を2年以上所有すれば株主総会の3分の2以下の反対を条件に議決権が2倍になる同法の適用を巡ってカルロス・ゴーン氏ら経営側と約15%の株式を持つフランス政府の間でその議案をめぐり激しい争いをしていました。が、先日の株主総会で残念なことにその議決は反対40%とルノー側が完敗したのであります。これによりフランス政府はルノーの経営に深く関与することとなります。ここで問題になるのがそのルノーの子会社である日産の扱いでありましょう。

フランス政府の目的は雇用の安定的確保。その中で生産拠点や経営方針についてもいろいろ口出しをしてくるとすればルノーにとっては足枷以外の何ものでもありません。ある意味、フランスのもっとも嫌な部分が前面に押し出されるわけです。

ちなみにフランスルノーでは欧州向け日産マイクラ(マーチ)を来年から委託生産することになっており、このあたりにまずは直接的影響が出るかもしれないとされています。

個人的に思うところはルノーと日産の関係というよりはカルロス・ゴーンと日産の関係に意味がありました。そのゴーン氏はルノーのCEOも兼務しており、日産の経営に対する力の配分も当然ながらかつてに比べ、薄くなってきます。仮に将来、ゴーン氏が退任した際、同等の関係が維持できるかといえば両社に積極的提携の意味合いを見出さない限りウィンウィンの関係になりにくいでしょう。

ルノーが日産の株式を手放す時とは一般的にはルノーの経営が悪化した時でしょうか?そういうタイミングがいつ来るのか分かりませんが、そろそろ離婚の準備はした方がよい気がします。親子逆転という発想もありますが、台数を追う経営の時代ではなく、あまり現実的ではない気がします。

蜜月の関係が長く続くことは現代社会では少なくなりました。それはそれぞれがそれぞれの道を歩まなばならない中で諸条件があまりに違うことにある時、気がつくからです。ならば、これから5年後、10年後を予見して問題を回避するのは経営陣の重要な責務でありましょう。

今日はこのぐらいにしておきましょう。

岡本裕明 ブログ 外から見る日本 見られる日本人 5月2日付より

会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。