人々のマインドは世の中のムードに影響を受けやすいとよく言われます。特に3-4年前までのメディアのトーンは悲壮感すら漂っていました。価格は安くなくてはダメ、本当はそこまで節約しなくてもよい人も華美で目立つことは避ける、「景気はどう」と聞けば悪い以外の声は返ってこない世の中でした。そんな日本はJapan Passingを通り過ぎてJapan Nothingと揶揄され、中国の勢いがひたすら目立った時代でした。
ところがひとたび、明るくなるとかつてのあの仄暗い時代はまるでなかったような展開になるのは日本の毎度の特徴でもあります。2013年、株価の回復を契機に百貨店で高級腕時計などが前年比3-5割も売れるようになりましたがあの頃はまだ、一般の人には疑心暗鬼、というより、縁がない話という受け止め方をしていました。
ところが2014年に一部の企業でベアが復活し、消費税引き上げというマイナス要素はあったにせよ、着実にマインドが明るくなり、12月の消費税再引き上げ延期で確かな感覚をものにしたようです。少なくとも今年の3月末決算発表を見ている限り確実に上に向かっており、16年3月予想も1割程度更に伸びると予想されています。
そのような明るい空気に包まれる中、企業によっては厳しさを増しているところがあるようです。日経ビジネスが特集を組んだ「挫折の核心 イオン セブンも怯えるスーパーの終焉」はダイエーに代表される総合スーパーマーケット時代が明らかに転機を迎えたことを報じています。特にイオンがその特集のセンターの位置を占めたのは同社の「トップバリュ」の不振が明白になったからでしょうか?最近のイオンの経営は様々なメディアが取り上げており、イトーヨーカ堂との戦いに敗北と捉える記事もありました。
それはセブンプレミアムが1兆円規模の売り上げまで伸び、価格より品質を重視した戦略で当たったのに対してトップバリュはなにより価格重視の戦略で時代の要請とかみ合わなくなったからであります。岡田社長がトップバリュを止めたいとつぶやいたとありますが、私がいつも指摘しているように大企業が経営環境の変化について行けなくなった敗者の弁そのものなのです。
では今の時代は品質が良ければお金を出すあのバブルの時代の再来なのか、といえばそれとも違います。日経ビジネスの記事にある高松のマルナカがイオンによって買収された途端、商品構成に面白味がなくなり、売り上げが落ちたという実例で説明できると思います。マルナカで売っていたのは市場を知り尽くし、圧倒的な仕入力を元に顧客に新鮮で安い品質の良い魚介類を提供していたのにイオンに代わってから購買システムが全国均一のルートになったことで地域の特性を生かした商品が出せなくなったとあります。
景気に対するマインドの変化で消費者のお財布の紐が緩んだわけではありません。ただ、人々はささやかな楽しみに悦びを感じたいと思っています。それがコメダでコーヒーを飲むことかもしれません。セブンの「金の食パン」を食べることかもしれません。あるいは近所で人気の八百屋で新鮮な野菜を買うことかもしれません。それらは数ある競合相手の中から欲しいというインパクトを与えることで人々の注目を浴び、売り上げが伸びるのです。
居酒屋のワタミの経営が混乱しています。安くしたり高くしたり、また安くしたりというのはマクドナルドや牛どんチェーンと同じですが、消費者の財布が価格でつられると勘違いするとこのような価格戦略の迷走をきたしてしまうのです。街中にはドラッグストアが乱立しています。正直、どの店でもまず同じ商品構成。価格もどっこいどっこいです。なぜ、この業態がこれだけ氾濫しているのか私にはさっぱりわかりません。近いうち淘汰があると思います。
私の実家の近くにはスーパーが4-5軒あり、一番近くにはピーコックがあります。ここは昔、一段上のレベルの商品構成で他店にはない特徴がありました。が、イオンの傘下になってからとたんにつまらない店となり、今では年に1度足を踏み入れるかどうかであります。スーパーの楽しみはへぇ、こんなもの売っていると思わず、長居をして余計なものを買いたくなる店だと思います。売上至上主義でNo.1でないとダメといわれたツケが回ってきたという事でしょう。No.1にならなくてはいけないのは世界に一つの花であって誰にも真似ができない特徴です。
同じ日経ビジネス巻頭には「今週の名言」で5名の言葉が並んでいますが面白いことに「挑戦せよ」と主張した人が3名もいます。これは編集部が意図した結果かどうかは別として「大企業はマニュアルにある通り作業をするだけの機械的業務で改善が止まっていないか」という強烈な提言だと思います。それは日本の独特の決裁システムである稟議と取締役会の権限の不明瞭さがリスクを恐れた経営と化していくことへの警告でもあります。その結果、イオンの様に時代の波に完全に取り残されつつあるという事でしょうか。
そういう意味でも日本はもっと分社化した方がよいでしょう。あるいは地域会社にしてその特徴を取り入れ、仕入れ先の流動化とオプションの増大を図るべきです。少なくとも外から見る日本の消費者の目はあまりにも厳しく、長年かけて築いたビジネスの牙城も一歩間違えばあっという間に崩れる時代であることは確信をもって言えることだと思います。
今日はこのぐらいにしておきましょう。
岡本裕明 ブログ 外から見る日本 見られる日本人 5月11日付より