イースト・ハーレムといえば、セントラル・パーク北端を入口に5thアベニューから西側に広がるハーレムと似て非なるエリアとされています。白人系、欧州系、アジア系の移住が進み、ヤンキース時代にはイチローが根城を構えたハーレムとは違い、黒人だけでなくヒスパニック系も多く居住するため、別名はスパニッシュ・ハーレム。ハーレム居住者は、「私はウエスト側なんで」とイーストと区別することもしばしばです。
そのイースト・ハーレム南側にあたる地下鉄6番線110丁目駅から、国連本部やJPモルガン本社にほど近いグランド・セントラルまで約25分。たったこの距離の間に、所得だけでなくもうひとつ大きな違いが横たわります。ズバリ、寿命です。
こちらの地図をご覧下さい。
(出所:Fast Company)
イーストハーレム住民の平均寿命76歳に対し、グランド・セントラルから南側に歩いて15分の距離にあるマーレイ・ヒル住民の平均寿命は85歳。その差は、9年にも及びます。アッパー・ウェスト・サイドの84歳のほか、クイーンズのアストリア・ロングアイランド・シティ地域住民の82歳、さらにずっと東に外れたエルムハースト・コロナ地域住民の84歳にも遠く及びません。一方でハーレムを超えた北側、ブロンクス地域でも平均寿命は77歳、79歳と80歳の大台を切っています。
バージニア・コモンウェルス大学(VCU)が米国勢局および米国疾病管理予防センター(CDC)の調査を元に弾き出した数字を振り返ると、地域ごとの平均寿命には 1)所得、2)教育、3)食習慣——の3つの理由が複雑に絡み合って影響を与えていることが分かります。
イースト・ハーレムやブロンクスで平均寿命が極端に短い点を踏まえば、所得や教育以外に食習慣が深く関与している可能性が見え隠れします。クイーンズの地域はイースト・ハーレムより住民の人種が幅広くギリシャ系をはじめインド系、中東系、中国系、韓国系とまさにサラダ・ボウル状態。逆に、イースト・ハーレムやブロンクス地域住民の人種は偏ったままです。
ニューヨーク市以外でも、こうしたトレンドは顕著に見て取れます。
VCUのアソシエート・ディレクターのデレク・チャップマン氏は、結果を受けて「健康水準の違いは一部の地域だけに特殊性が見られるわけではなく大都市、小さな町、地方問わず全米に通じる」と振り返ります。その上で、今回の調査の狙いは「地方政府の職員をはじめ住民が単に医療保険だけでなく、広い範囲にわたって条件を改善する必要性に目覚めること」だと結んでいました。
食生活は貧困と結び付きが強く、低所得者層にとっては改善しづらいというのが実情なのでしょう。米政府から低所得者層向けに配布される食糧購入用チケット=フードスタンプで生活する場合は、なおさらです。いかに安い食品でお腹を満たすかに重点が置かれていますから。ジャンクフードだったり、調理するケースでも油で揚げたり、炭水化物でお腹を膨らませる傾向が高くなってしまうと考えられます。そういえば、オスカー女優グウィネス・パルトロウが1週間の食費を29ドルでやりくりするチャレンジに打って出た当時、メインが野菜ばっかりだったせいか結局4日で根負けしていました。
(カバー写真:Esra Realty)
編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2015年5月10日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった安田氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。