テロの多発が懸念されるボスニア --- 長谷川 良

バルカン地域は多数の民族、宗派が交差し、民族紛争が絶えなかったことから、“バルカンの火薬庫”と呼ばれ、昔から恐れられてきた。そのバルカンの一国、ボスニアがここにきて再び“きな臭く”なってきたのだ。今回は民族間の紛争というより、イスラム過激派グループの進出が背景にある。


ボスニアのスルプスカ共和国(セルビア人共和国)のズヴォルニク市(Zvornik)で先月末、25歳の男が警察署を襲撃し、1人の警察官を殺害、2人に負傷を負わさるという事件が発生した。事件を調査した警察当局によると、男は犯行時に、「神は偉大なり」と叫んでいたことから、イスラム系過激派テロリストによる犯行と判明。犯人の身元が割れると、そのテロリストの母親は「息子は最近、Dubnicaのイスラム過激派グループ、ワッハーブ派と接触するようになり、思想が過激になっていた」と証言している。

ボスニア紛争(1992~95年)が終了し、デイトン和平協定が合意した後、サウジアラビアのワッハーブ派がその豊かな資金をボスニアに投入し出し、多くのイスラム寺院を建設するなど、ボスニアを西欧進出の主要拠点としてきたことは、このコラム欄でも数回、報告済みだ。

サラエボで2011年10月28日、自動小銃で武装したイスラム教徒の男が米大使館を銃撃、警官1人が重傷を負うという事件が起きている。男は警察の発砲を受けて足を負傷し、逮捕された。警察当局の話によると、犯人は隣国セルビア出身で23歳。米大使館襲撃を狙ったテロ事件という。男はセルビア南部のイスラム教徒が多い地域出身で、イスラム原理主義グループのメンバーだった。

ワッハーブ派の進出でボスニア国内のイスラム教徒との間で小競り合いが増えている。ただし、ボスニアで勢力拡大を狙っているのはサウジのワッハーブ派だけではない。イランのシーア派グループも活発な活動を展開している。

イスラム過激派の進出は、ボスニアの少数宗派にも影響を与えている。例えば、ボスニア紛争前までは約90万人いたカトリック教徒は今日、45万人と半減するなど、ボスニアのキリスト教徒は中東諸国と同様、イスラム過激派の攻撃を恐れ、国外に流出している。

オーストリアの日刊紙スタンダードは、「4月末のテロ事件後、ボスニア国民はイスラム過激派によるテロ事件が今後多発すると懸念し出した。ボスニアの治安状況は米国に似ている。ボスニア紛争の影響でどの家庭にも大量の武器が隠されているからだ」と指摘している。

ボスニアのテロ事件の背後について、「イスラム過激テロ組織『イスラム国』の影響」という治安問題専門家の声も聞かれる。ちなみに、ボスニアから約200人のイスラム教徒が「イスラム国」に入り、シリアやイラクの紛争に参戦しているという。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2015年5月12日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。