ユニークであれ、それが成功の条件だ --- 堀 義人

アゴラ

個性―真の意味で競合と異なること―は、どんな企業でも持つことができる最大の強みである。

ハーバード大学のマイケル・ポーター教授は、昔気質の日本企業とレミング(タビネズミ)を比べたことで有名だ。レミングは全員が同じ方向に突っ走り、一斉に崖から海へと落ちてしまう。


ポーターは正しかった。かつて好調だった日本のエレクトロニクス業界を考えてみるといい。どの会社も独自路線を追求せず、競合と同じ物の生産に没頭したため、国際的な競争力を完全に失ってしまった。

しかし、個性的であることは、単純に他社と違うこと以上の意味を持つ。それは、他社にはできず、自社にしかできないことを見つけることだ。また、ビジネスの中核となる原理を構築し、ビジネスモデルが個性的に進化するまでそれを貫くことだ。個性を貫くには、腹が据わっている必要がある。

1997年、Appleに復帰したスティーブ・ジョブズは、「Think Different」という広告キャンペーンを打ち出した。当時のAppleは、CompaqやHPと同じように、すべての商品をすべての人に提供しようとするあまり、勢いを失っていたのだ。ジョブズはすぐに、Apple製品の7割をラインナップから外した。プリンター、サーバー、PDA「ニュートン」などだ。そして、将来的に4つのビジネスエリアに集中すると発表した。それが、2種類のデスクトップと、2種類のラップトップだった。

Appleはその後、シンプルで直感的、かつエレガントなデバイスを生み出すことに集中し、「他社と違う」状態を維持してきた。Appleは2011年、株式時価総額でExxonを超え、世界最大企業に躍進した。レーザー光線のように真っ直ぐな特化戦略が、その一因であったことは言うまでもない(今年2月以降、Appleの時価総額はExxonのそれの2倍となっている)。

しかし、企業が大きくなるにつれ、個性を維持することは難しくなる。そこで、常に個性的に考え、個性的であるための、僕なりのヒントを紹介しよう。

1. 自社のルーツから物理的に離れない

84歳の投資家、ウォーレン・バフェットは、人生の大半を故郷ネブラスカ州オマハで過ごしてきた。ウォール街から離れることで、冷静な視点を保てるというのが彼の主張だ。ビジネスにおいて、「(他の誰とも)違う思考をしていれば、他人が貪欲なときは自分が慎重になり、他人が慎重なときには自分が攻めに転じる」ことが、大きなアドバンテージになると言う。

日本の産業でも同じことが言える。電子部品会社がひしめく京都では、それぞれがニッチなエリアで、国際的優位性を築いている。そのひとつ、精密計測機器メーカーである堀場製作所の堀場厚CEOは、本社を東京に移すことは有害だと述べている。競合他社と同じ首都に移れば、自社は独自路線の追求をやめ、「ありきたり」の会社になってしまうと言うのだ。

2. 自社のルーツから精神的に離れない

ワインには、生育環境に固有の、特徴的な味わい(テロワール)がある。企業も同じだ。家具大手IKEAの創業者イングヴァル・カンプラードは、スウェーデンの田舎町の農家に生まれ、自宅のキッチンで会社を興した。今や50か国近くで存在感を示すIKEAだが、スウェーデンの農村が持つ質素で堅実な価値観は、今でも失われていない。これだけ国際展開を進めているにもかかわらず、取締役会の大半は、スウェーデンの小さな地域の出身者で占められている。

これは、日本企業のトヨタにも共通する。同社は今でも、創業の地、三河の文化を保っている。勤勉・質素・根気という地元の価値観を自動車製造ビジネスに適用した結果、カイゼンの概念が生まれた。よく知られているように、同社に成功をもたらした主な原動力は、このカイゼンである。

3. 独自のビジネスモデルを構築し、こだわる

日本のエレクトロニクスメーカー、ソニーは、かつてはウォークマンやハンディカムなどの商品で名をはせた。それが今や、損失を止めるため、終わりなきリストラを続けている。

多くの日本人コメンテーターが、ソニーはグローバル化を追求するあまり、ビジネスモデルを支える創業時の原則を見失ってしまったと考えている。共同創業者の1人、井深大氏は、1946年の設立趣意書において、設立の目的として「真面目なる技術者の技能を、最高度に発揮せしむべき自由闊達にして愉快なる理想工場の建設」を掲げている。

問題に直面したソニーは、工場を売り払い、製造をアウトソースし始めた。このように、創業時の目的と精神に背を向けたソニーは、競合との差別化を支えていた、唯一の要素を捨ててしまったのだ(生産ロボットメーカーのファナックやカメラ会社のキャノンなどが、ソニーの失敗から学び、核となる製造能力をアウトソースしないことを決めているのは興味深い事実である)。

僕は、創業したビジネスの個性を保つための努力を続けてきた。1992年創業のビジネススクール、グロービスでは、起業家精神がすべての基礎になっている。30歳でスクールを設立したときの資本金は、わずか8,000ドル。それ以降、常に起業家精神を研ぎ澄ませ、新たな地域市場(国内に5キャンパス)、異なる言語(日本語だけでなく英語MBAプログラムもある)、さまざまな教育手段(オンラインやアプリなど)にも果敢に挑んできた。おかげで我が校は、名実ともに日本一のビジネススクールに成長した*。

我が校では、自社を差別化する方法を明文化している。これを、4つのユニークさと呼ぶ。

1. 高満足:サービス保証制度を設けている。受講生がコースを気に入らない場合、受講料の全額を返金する。これをやっているビジネススクールは他にない。
2. 実践的:教員陣の100%がビジネスのバックグラウンドを持つ。
3. 創造と変革:既存大学の付属ではなく、ゼロから始めた唯一の経営大学院である。
4. 志士:アカデミックなスキルだけでなく、個人としての理念、哲学、志を教育の根幹とする。

ビジネススクール設立にあたり、従来のハーバードモデルとは「全く異なるもの」にしようと僕は決めた。競合の真似をするのは簡単だが、人真似は断じて戦略ではない。リーダーたる者、「右へ倣え」のアプローチは避けなければならないのだ。それよりも、自社のDNAに個性を見つけ、それを発展させることが大切だ。

企業にとっての成功の秘訣とは、―個人の成功と同じように―「自社らしさを見つけ、自社らしくいること」。個性的なビジネスをしていると、いつか、個性的な成功をつかむチャンスに恵まれるのである。

(訳:堀込泰三)

* グロービスニュースリリース「グロービス経営大学院、2015年度入学式を挙行 日本語・英語パートタイムプログラムで702名が入学

この記事は、2015年4月28日にLinkedInに寄稿した英文を和訳したものです。


編集部より:この記事は堀義人氏のブログ「起業家の冒言/風景」2015年5月11日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は、「起業家の冒言/風景」をご覧ください。