中国との「偶発的衝突」をどう防ぐのか

中国が「海洋国家」だったのは、もう遙か昔、15世紀の明の時代に鄭和が大船団を組織してインド洋から中東やアフリカへ渡ったころだ。その後、明は一種の鎖国政策へ転じ、以降、海へ出ることはなかったが、ここ十数年で姿勢が様変わりした。尖閣諸島や南沙諸島に代表されるように、東シナ海や南シナ海での領有権を主張し、海軍力も大きく増強させている。


フィリピン海軍と共同訓練を行う予定の海上自衛隊の護衛艦「はるさめ」。写真提供:海上自衛隊


これはエネルギーや食糧などを輸入に依存するようになった中国にとっての「シーレーン」防御の側面、また米国の軍事的退潮による東アジアでのパワーバランスの強化、台湾やフィリピン、ベトナムへの牽制の意味合いも強いと思われる。さらに対インドを指向した海洋戦略、つまりミャンマーやバングラデシュ、スリランカ、パキスタンなどの環インド洋で包囲網を構築することも目的だろう。これら諸国のほか、日本も同様に中国の圧力にさらされている、というわけだ。

しかし、中国の沿岸は遠浅で良港が少なく、過去の歴史で海洋へ進出できなかった理由もそのあたりにある。機雷などで封鎖されれば、中国海軍はその機能を失ってしまう。逆に、だからこそ外へ外へ海軍力を伸長させなければならない、という強迫観念もある。ただ、その巨大な圧力に直面している諸国にとっては危機感を煽る迷惑な話だ。

海上自衛隊は5月12日にフィリピン海軍と共同演習を行う。場所は、マニラの西方海上。参加艦艇は、海自側が護衛艦「はるさめ」と「あまぎり」、フィリピン海軍側が「グレゴリオ・デル・ピラール」級フリゲート艦「Ramon Alcaraz(ラモンアルカラス)」だ。洋上で偶発的接近した際の行動基準(CUES、Code for Unplanned Encounters at Sea)をもとにした通信訓練や艦艇の戦術的な行動訓練など、という内容になっている。

一方、こちらは海自とフィリピン海軍との共同訓練について紹介した「DefenseNews」の記事だ。また、5月3日からは海上保安庁が巡視船「やしま」をフィリピンやベトナムへ派遣し、両国の海上保安機関と連携して共同訓練を実施している。これは表向きは「海賊対策」ということになっているが、中国艦艇との偶発的な接触における「CUES」を確認する目的も含んでいると思われる。

CUESは「計画外の遭遇」ということで、相手は当然、中国海軍の艦艇、ということになる。偶発的な衝突が生じ、それが本格的な戦闘から戦争へつながらないよう、基本的な行動を決めておこう、というわけだ。尖閣諸島では、恒常的にそうした状況が起きている。戦争が起きるためには、何か発火点のようなものがあり、意図的かどうかわからないがそれはあたかも偶然のように装って生じる。第一次世界大戦のサラエボ事件しかりベトナム戦争のトンキン湾事件しかりだ。

ちなみに、フィリピン海軍との共同訓練に参加する護衛艦「はるさめ(DD-102)」は「むらさめ」型の二番艦で、旧海軍に同名の「春雨」がある。船体はステルス性を考慮して設計され、90式艦対艦誘導弾(SSM-1B)による長距離対水上打撃力を備えている。さらに対潜兵装も充実し、レーダーやソナー、コンピューター、ミサイル兵器などの高性能機器や対潜火力を持つ哨戒ヘリを搭載している。

領海外の海上は、航海の自由が保障されている。表題の記事では、各国が行動基準CUESに従った行動をとることで偶発的な危機を回避できる、と書いている。そのために関係国の議論や調整が必要であり、海自とフィリピン海軍の共同演習も同じ延長線上にある。しかし、このCUESはあくまでも米国とその同盟国の規準であり、たとえばロシア海軍や中国海軍が同意できなければ仕方ない。対峙する双方が、同じ基準を共通認識にしていく努力が必要だろう。


2014年8月11日からオーストラリア、ダーウィン周辺海域で実施されたオーストラリア海軍主催の多国間海上共同訓練「カカドゥ14」に参加したフィリピン海軍の「ラモンアルカラス」(左)。右は海上自衛隊の「あさかぜ」型護衛艦「はたかぜ」。

THE DIPLOMAT
Improving Order in the East China Sea


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アゴラ編集部:石田 雅彦