企業経営にとって、一時的な業績の悪化は、不可避である。また、成長のための新規投資、成長のための革新、革新のための構造改革も、不可欠である。
一時的な業績の悪化も、構造改革も、新規投資も、金融の立場からは、困難な問題である。赤字が続けば、自己資本比率が低下する。売り上げが減少すれば、負債の利払いにも支障が出かねない。構造改革を断行すれば、一般に、大きな特別損失の発生を伴い、自己資本比率が悪化する。債務超過の可能性もある。新規投資は、大きな将来についての危険を伴う。
企業経営の経営において、こうした状況は、不確実性が顕在化したときである。金融の社会的機能が問われるのは、まさに、このときである。
融資等の負債を供給している銀行からすれば、自己資本比率の低下は、大きな問題である。融資等の負債は、その下に自己資本の厚みがあることを前提にしているからである。自己資本は、利払いの負担もなく、弁済期も確定していないが故に、不確実性に対する耐性が強い。ここが不確実性を吸収するからこそ、上に融資等の負債がのるのである。
企業の資金調達の本質的な論点は、企業経営の不確実性の管理手法である。自己資本の厚みの上に、どれだけの負債をのせられるか、逆に、自己資本が減少したとき、負債を支えるために、いかにして自己資本の厚みを増すか、この検討こそが、最適な資本構成の理論である。
金融の社会的機能にとって重要なことは、企業の経営環境の変化に対応して、最適な資本構成を企業に提供することである。そうすることで、経営の安定継続を実現させるのである。そして、この最適な資本構成の提案が、本来の投資銀行業務なのである。
現代の金融制度は分業制である。例えば、銀行は、資本構成の最上位の融資を、投資銀行は、下位の社債と株式を担当し、プライベートエクイティは、非常態における資本構成全体の再構成を担当する。このような分業制のもとでは、事業環境の変化に対応していくためには、関係者間の緊密な連携が必要になる。その連携をまとめるのが、真の投資銀行である。
広義のプライベートエクイティは、投資運用業者として、投資銀行機能も演じつつ、融資も含めた資本構成の全体を扱えるので、便利である。そこに、プライベートエクイティならではの働きがある。事業再編のようなときにプライベートエクイティが中核的役割を演じるのは、ここに理由がある。
森本紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
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