バブル崩壊後の90年代後半、邦銀の多くは「本業回帰」を声高に叫びました。理由はバブル時代に企業が多種多様なビジネスに投資をしたものの儲からず、投下資本が回収できない状態が続いたからであります。その時、多くの日本企業の海外投資も「撤退」を余儀なくさせられました。
当時海外から見ていた私は銀行は酷いものだ、と嘆き続けました。「お宅の会社の海外事業はどれもこれも一つも儲からない。なのに、まだこんな投資を続けるつもりなのか?」「さっさと売って撤退してください!」と30絡みの若手銀行マンの上から目線に多くの企業は損失を計上し、店をたたみました。
その頃ある日本の大手電機メーカーの方とよくつるんで飲んでいたのですが、同社が北米の携帯電話事業を撤退せざるを得なくなりました。酔いの勢いもあってか憤懣やるせない気持を抑えられなくなっていたのが今でも印象的であります。その頃、北米における携帯電話はモトローラなどに徐々に押されつつあり、店先の陳列棚に日本製は数えるほどの種類しかありませんでした。その電機メーカーはそんな中でも奮闘していて北米市場における日本メーカーの中では相当頑張っていたのですが、本体が苦しくなってきたこともあり撤退宣告となったようです。
銀行の本業回帰コールに対して日本企業のあちらこちらから苦労して築いた海外進出の礎を全部壊し、海外のノウハウ、人脈、人材、営業情報が全部パーになったと恨み節が聞こえてきたのもこの頃です。
そんな私が担当していたのも「海外の不動産開発」というこれほど叩きやすい事業はなく、連日、銀行とのバトルに明け暮れていました。それでも我々が生き延びることができたその理由は資金調達から親会社保証、本社のノウハウ、人材派遣を含め一切要求せず、独力でプロジェクトを進めたからであります。銀行の本店営業部の担当者が電話越しに恨みつらみで爆発しそうになりながら「失敗したら責任取って撤退すること」を条件にしぶしぶOKしたのであります。
それから7年後、本体が倒産しましたからプロジェクトだけが生き残ったという皮肉な結果となりました。挙句の果てに銀行の本店営業部長が直々に私のところにきて「会社を買い取ってもらえますか?」というのですから手の平を返すとはこのことでしょう。
さて、三菱UFJフィナンシャルグループの15年3月連結決算で純利益が1兆円を超えてきました。邦銀初の快挙であります。昨年は9500億円の利益に対して社長が「1兆円も稼いだら嫌味になるからその手前がいい」と訳の分からないインタビュー記事が掲載されていたのが印象的でしたが今年は利益の抑えが効かなかったという事でしょうか?(笑)
その銀行の稼ぎの原動力をメディアはこのように述べています。「好調な業績を維持できるかは、海外事業を含めたグループ力の向上が鍵を握りそうだ。三菱UFJ決算の特徴は、多様な収益源だ。中核の三菱東京UFJ銀行と三菱UFJ信託銀行以外に証券会社、タイのアユタヤ銀行、持ち分法適用会社である米モルガン・スタンレーなどが利益の押し上げに寄与した。」(日経電子版)とあるように今や銀行はいかに収入源を増やすかを競っているわけです。
この傾向はメガバンクのみならず国内リーテールの雄、りそな銀行ですら海外進出を企てている他、地銀、信用金庫は既に東南アジアに出店ラッシュとなっています。90年代は銀行が本業回帰と言っていたのに今や、銀行がこぞって海外に出る時代なのです。
理由は銀行の本業が儲からないという事であります。例えば三菱UFJの場合、国内の貸出金利りざやは0.09ポイント悪化し1.16%であります。最大手でこの程度の利ザヤですから他行も推して知るべしです。
私が日本事業の経理処理をパソコンソフトで行っていると見事に出金の項目に銀行宛て支払いが並んでいるのに辟易とします。ローン返済、ローン金利支払いはもとより振込手数料、ネットバンク利用料など経常的支出のみならず突発的な銀行宛ての支出も実に多いのであります。銀行はどうやって儲けているのか、といえば本業を出しにして実は関連サービスで儲けている構図が見て取れます。
一昔前、銀行サービスの差別化が大きなテーマになったことがあります。どこに銀行も横並びで何が違うかと言えば預金した時に持ってくるティッシュの箱の数とも言われていました。その変化の兆しを作ったのはお亡くなりになったりそなの細谷英二元会長だったと思います。JR東日本から同行に転じ、営業時間を延ばしたり、女性主体の店舗配員を進めたりするなど他行とは圧倒的な差別化を図り同行の業績回復に大きな道筋をつけました。
銀行がバブル崩壊から20年以上も経ち、公的資金をほとんど返済し、利益に対して税金を払うようになり、海外に進出するようになり、ビジネスを多様化しサービス業としての顔を前面に出すようになったことは地殻変動ともいえる変化であります。これは一般企業でも更なる多様化を推し進める道筋ができたことを示唆しているともいえます。
産業全体がより前向きに地球規模のビジネスを進めることは間違いなくニッポンの強さの証明となることでしょう。
今日はこのぐらにしておきましょう。
岡本裕明 ブログ 外から見る日本 見られる日本人 5月16日付より