都市のスラム化をどうやって止めるか 『東京劣化』



大阪都構想をめぐる住民投票の結果は大きな注目を浴び、アゴラでも連日20万ページビューという普段の2倍以上のアクセスがあった。これは高齢化する日本の縮図であり、本書もいうように東京を初めとする大都市がこれからスラム化するリスクが大きい。

大阪ではすでにその兆候が見えている。梅田の駅を中心とするキタのビジネス街は再開発で東京の都心なみの近代都市になったが、ミナミの町は貧しいので昔の町並みが残ったままで人口流出が続き、「南北問題」が起こっている。これから高齢化が急速に進むと、ホームレスの老人が増えるだろう。

全国的にみても、地方の高齢化はもうピークを越えたが、これから大都市の高齢化が加速する。いま東京都の人口分布のピークは35~39歳だが、これは25年後には60~65歳になり、高齢者が143万人も増える。これに老人ホームなどの増設で対応しようとしても、現役世代の減少で税収も減るので、都市財政が破綻する。

この問題を「成長戦略」で乗り超えようというのは幻想だ。昨年の労働力人口の減少率は1.5%。それを補うためには1.5%の労働生産性の増加があってやっとゼロ成長になるが、著者の見通しでは2020年代以降はマイナス成長になる。一人当りのGDPは伸びるが、社会保障のゆがみによって現役世代の可処分所得は減り、給料の9割が天引きされる時代が来る。

このゆがみは世代間では若年層の貧困化として、地域間では都市のスラム化としてあらわれる。これを避けるには社会保障を抜本改革する必要があるが、それだけでは足りない。都市財政が悪化するとインフラ整備ができなくなるので、無駄な財政支出を減らして都市を小さな政府にし、安価な賃貸住宅の建設を補助するなどのスラム化対策に公共投資を重点配分する必要がある。

こういう「引き算」の改革は痛みをともなうので、いやがられる。それにあえてチャレンジした橋下徹氏を、大阪市民は拒否してしまった。高齢者にとっては(自分が死ぬまで)ゆるやかに衰退させようというのも一つの選択だが、あとに残された世代はスラム化する都市でホームレスになる。今回の住民投票は、そういう転換点として歴史に残るかもしれない。