デモクラシーは歪んだ制度 『民主主義の条件』

砂原 庸介
東洋経済新報社
★★★☆☆



大阪都構想については個別の事情はいろいろあるだろうが、これは政策というより橋下徹氏の信任投票のようなものだった。全国的にみておもしろいのは、Vlogでも説明したように税金を使う世代が政治を決める傾向が鮮明に出てきたことだ。

これは「シルバーデモクラシー」の問題ではなく、デモクラシーの本質的な歪みである。今回は一つの問題についての住民投票というわかりやすい形で出てきたが、国政の歪みはもっと複雑で困難だ。1100兆円の政府債務と800兆円の年金債務を抱えて社会保障の削減は絶対さけられないのに、それを提案する党が与野党に一つもない。

日本の政治家は、個人後援会を通じて地元利益を吸い上げる受益者の代表になってしまい、納税者を代表する党が育たない。自民党という受益者集団が圧倒的多数で、それ以外の野党が(民主党も含めて)泡沫政党になってしまった。政党政治は本来、民意をグループにまとめる制度なのに、日本では自民党以外のグループがまとまらない。

本書はこのような自民党システムを改革するためにどうすればいいかをいろいろな角度から論じているが、解決策はみえない。明らかなのは、今の選挙制度は最悪だということだ。小選挙区と比例代表と中選挙区制を混ぜ、参議院が衆議院と同等に近く、1.5年に1回も国政選挙があると、長期的な政策を打ち出すリーダーが出るはずがない。

本書が提案しているのは、政党を公的組織として制度設計することだ。英米の議会政治では、もともと二つの階級が対立しているので、政党はそれを代表する私的な集団として自然にできたが、日本ではそういう階級対立がないので、「憲法を守れ」という無意味な対立軸をめぐって神学論争を続けてきた。

これを是正するには、泡沫政党を禁止するとか、政党の制度設計などの改革が必要だが、それを政治家にやらせていては、いつまでたってもまとまらない。たとえば世代別選挙区のような改革を導入するには、政治制度のデザインを行なう独立機関をつくる必要があろう。