9日間の欧州旅行に出かけた。その間、持参したノート・パソコンが故障したこともあって、ブログ執筆をお休みしていた。
ただ、ネット上のニュースやブログはiPadで読んでいた。中で宮崎正弘氏の「国際ニュース・早読み」が興味深かった。18日付けで「中東地図が激変している」と分析している。以下、抜粋、要約すると--。
サウジアラビアが米国の依存度を急激に減らし、ロシアと中国へ異様に接近。中国はサウジにイランを射程にできる最新鋭ミサイルを供与した。一方でサウジは、イランを脅威としてパキスタンに資金供与し核開発をさせている。サウジはまた、シリアのアサド大統領を支援している。
欧米のシリア攻撃には不満を持ち、米国との間で寒風が吹いてきている。サウジは米ドル基軸一辺倒だったのに、人民元、ルーブル決済をも認める変わりようだ。
米国と親密だったイスラエルもオバマ政権との溝が広がっている。オバマ大統領はイスラエル擁護政策を弱め、今やイスラエルに敵対的でさえある。イスラエルはその分、ロシアや中国との関係を深めつつある。中国とイスラエル間には武器輸出で秘密協定が存在し、最新鋭ミサイル、戦車技術などを中国へ供与している。
他方、アラブの春はテロが頻発、リビアは無政府状態、エジプトもイスラム原理主義政権が生まれたりして大混乱、軍事政権が誕生した。イラクは親米政権どころか、反米シーア派が政権をおさえ、スンニ派を弾圧し、その結果「イスラム国」が台頭、やはり無政府状態だ。「イスラム国」の石油は中国へ流れている。米国と敵対するイランの石油の最大の買い手も中国だ。
こうした動きをにらんで、トルコも変わった。NATOの一員として欧米に尽くしていたが、ユーロに加盟してもらえず、シリアとイスラム国の跳梁によって百万の難民が押しかけたため、基幹産業の観光が総崩れとなった。ついにエルドアン大統領は親欧米路線を転換、イスラム国家へと回帰しつつある。その動きをロシアは見逃さない。すかさず対欧向けのパイプラインをトルコ経由とした……
米オバマ政権の弱体化が招いた中東を震源とする国際社会の動乱、不安定化が広がっているのだ。米一極支配から多極化の進展である。準戦国時代になりつつあるとさえ言える。
無論アメリカ幕府の力は今も強いが、幕府だけを頼みにはできない時代である。だから、あちこちで密議が開かれ、合従連衡が活発化している。中国が主導する「アジアインフラ投資銀行(AIIB)」に英国、ドイツなど欧州主要国を含む57カ国の参加が決まったのも、米国の弱体化の産物だろう。今に米国も日本の頭越しにAIIBに参加し、米国頼みの日本はハシゴをはずされて、国際的に孤立する、といった見方も流れている。
動乱の国際社会を勝ち残るには、強国との同盟を大事にしつつも、究極的にはだれをも頼みとせず、多角的な連携、協力関係を結ぶ才覚、実行力が必要なのである。
戦国時代を駆け抜けたのは、そうしたしぶとい武将、「悪人」だった。その目で日本の安倍晋三首相を見ると、かなりの力量があると見ていいのではなかろうか。
宮崎氏は大竹慎一氏の対談「中国崩壊で日本はこうなる」(構成=加藤鉱氏、徳間書店)の中で、安倍首相をこう評価している。
安倍首相はだんだんアメリカから離れていったことから、アメリカにとり四大悪人の一人になってしまった。四大悪人とはすべてナショナリストで、その面々とはロシアのプーチン(大統領)、トルコのエルドアン(同)、インドのモディ(首相)、そして日本の安倍首相である
安倍首相は孤立しないすべを心得ている。2012年末に第2次安倍内閣を発足させて以来、50カ国以上を訪問し、歴代首相を圧倒している。各国で歓迎された。米国と距離を置いたからではない。米国議会ではスタンディング・オベーションを受けるほどに評価された。途上国などの歓迎は円借款や財政支援でバラマキ外交をしたからだ、との批判があるが、国家資金とは使いようである。
プーチン、エルドアン、モディという「三大悪人」がこぞって、安倍首相との会談を歓迎し、評価している。昔英国のサッチャー首相がロシアのゴルバチョフ大統領に会った後、「この男とは仕事ができる」と語ったという有名な話がある。仕事のできるリーダーは力のある相手を嗅ぎ分けるのだ。悪人は悪人を知る。しかり、悪人とは仕事ができ、国家と国民の安全と繁栄を維持、強化できる人間のことだ。
米国の議会で安倍首相がスタンディング・オベーションを受けたのも、その力量を評価されたからにほかならない。
むろん、そこでいい気になってはいけない。相手が失敗したり、動きが鈍くなれば、各国の首脳は平気で関係を切る。「この男とは、もはや仕事はできない」と。
安倍首相は21日、日本経済新聞社が東京で主催した国際交流会議「アジアの未来」の晩餐会で演説し、今後五年間で13兆円をADB(アジア開発銀行)と連携する形でアジアのインフラ建設に投じると表明した。
ドル換算で1100億ドル。中国主導のAIIBの資本金(500億ドル)の2倍以上だ。演説の中でAIIBに対抗する形で「質の高いインフラをアジアに広げていきたい」と述べ、「孤立化」の不安を払拭した。「安かろう悪かろうはもう要らない」と安値攻勢をかける中国のやりかたをも暗に批判している。
今のところ、日本の「悪人」の手法に手抜かりはないように見える。問題はそれを支える与党の政治家や役人、経済界、マスコミ、そして国民である。
いまだに、集団的自衛権の行使をすると「自衛隊員が危険な目にあうリスクが高まる」とか、「安保法制は危険だ」などと言っている向きが多い。民主国家では国民の支えがなければリーダーは存分に力を発揮できない。
もとより批判すべき点は多いに批判しなければならないが、戦国時代にはそれにふさわしいリーダーが必要であり、国民もリスクを引き受ける気概を持たねば、悪人は働けまい。
自衛隊員が危険な事態を覚悟しなければならないのは警察官や消防隊員と同様である。さらに大事なのはイザというとき、そうした自衛隊員や警察官、消防隊員を国民が側面、背後から支える態勢ができていなければならない。そういうと、キナ臭くなって怖くなる。だが、逆説的だが、国民にその気構えがある国の方が平和が維持される。スイスのように。
編集部より:この記事は井本省吾氏のブログ「鎌倉橋残日録 ~ 井本省吾のOB記者日誌」2015年5月22日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった井本氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は鎌倉橋残日録 ~ 井本省吾のOB記者日誌をご覧ください。