「時価総額バブル期越え」を考える

日本の株式市場で時価総額がバブル期のそれを超えました。この時価総額とは発行株数に株価を掛け合わせた各企業の時価総額の総額であり、東証一部企業の合計が591兆円となったわけです。

ではなぜ時価総額が並んだのに1989年12月29日の日経平均が38957円で今はまだ20000円そこそこなのでしょうか?これは一つに上場企業数が増えていることがあります。1990年の東証第一部企業数は1191社、それに対して昨日時点では1889社と59%増えています。


もう一つは株価が一株当たりの収益に対して何倍まで買われていたかを示すPERが当時は60倍に対して現在は17倍に収まっているからであります。日経平均の採用銘柄が変っているので単純比較はできませんが、いわゆる欧米先進国のPERとほぼ並ぶ水準に「成熟」したともいえます。

バブルの時、なぜ株が買い進められたか、様々な理由が合わさった結果でありますが、株価の特性だけに目を向けると一株当たりの利益に対する株価水準が妥当な水準を超えてまで買われるのはその成長性に目をつけていたからです。

PERの17倍が何を意味し、どうして妥当なのでしょうか?私はいわゆる利回りに引き直したら分かりやすいと思います。PER17倍は利回りが約5.8%と計算でき、PER60倍は1.7%となります。投資家がある物件、案件に投資する場合、その会社の高い成長性が期待できる場合、ハイリスクハイリターンとなり、株価は理論値を大きく超えたところまで買われます。たとえ赤字会社でPERが計算できなくても株価だけは暴騰することがあるのはその会社の将来を買っていると言えます。

ところがPER17倍、利回り換算で5.8%というのは事業会社が成長期から安定期に入り、果実が着実に収穫できるところに目をつけます。例えばアップル社はPERで現在16.5倍と非常に心地よい所におさまっていますが、アリババ社は59.75倍と正に日本のバブル期のような株価をつけています。アップルの収益率の高さは定評がありますし、多くの投資家は高い収益率が今後も安定的に続くと期待しています。

一方アリババの投資家は同社が次々と進める戦略に魅力を感じています。例えばジャックマーCEOが中国偏重から他国にも進出すると発言すれば株は買われましたし、実はひそかに自動車事業の準備をしているという噂が出ればもしや、という夢を与えてくれるわけです。

80年代の日本経済には夢があったと思います。それは株価と地価は永遠に上がり続け、誰一人ババ抜きゲームだと思っていなかったのです。それぐらい力強く、この会社もあの会社も5年後、10年後には大きく変貌すると思っていました。それが崩れ去り、ようやく肥満児を脱し、体脂肪率が心地よい所に収まった時、円熟味を増したともいえるのでしょう。

こうなると株価がこれ以上理論的に買われるには全ての企業の収益が毎年5%とか10%ずつ伸び続ける必要が出てきます。企業は成長するのが前提ですが潤沢な資金を持てば持つほどその収益率は上がるはずです。ピケディの資本収益率(r)>経済成長率(g)を発想の転換で考え直せばそうならないでしょうか?

日本企業は「失われた○年」の間に銀行からの借入金をせっせと返し、実質無借金にした企業は多く、キャッシュリッチとなりM&Aや新規投資のチャンスを虎視眈々と狙っています。ファナック、任天堂、アステラス、キーエンス、ヤフーなどがトップクラスですが、彼らがもやは投資は増やさないとすれば配当を増やすことで株主は潤い、投資したければその収益は当然高くなり株価は更に上がりやすくなると言えます。

バブルの頃に痛手を負った多くの個人投資家の方は「二度と株はやらない」「新聞の株価欄は悪だ!」などとのたまったわけですが、この25年の間に株式市場は大きく成長し、筋肉質となり、リーマンショックのような外的で経済の根本を揺るがすような事態が起きない限り株価の一方的な暴落はない所まで来ています。逆に言えば一方的な暴騰もないともいえ、いわゆる健全な範囲で投資の果実を得ることが出来るようになったともいえます。それ故、日本人は銀行預金からもっと投資にお金を振り向けるべきかと思います。

最近、日本人が定期預金ではなく普通預金にお金を預けていると報道がありました。その理由が分からないとも解説されていましたが私流に言わせれば、それは定期に預けて一定期間の資金の縛りの後、雀の涙しかもらえない利息に問題があるということなのです。まるでお金を刑務所に入れて出獄した時に社会復帰できるだけのわずかなお金をもらうようなものです。それよりも一般社会でなにかチャンスがあればいつでも動かせるお金を持つのが道理にかなっているのは言うまでもありません。

健全になった株式市場にはもちろん一定のリスクはあります。しかし、最近の株価分析のテクニックは非常に優れており、それらの「武器」をうまく使いこなし、投資家の貪欲さと失望の狭間を読み取れるようになれば実におもしろいと思います。決して有り金の全部を一点買いで勝負しない賢さも大事であります

今日はこのぐらいにしておきましょう。

岡本裕明 ブログ 外から見る日本 見られる日本人  5月23日付より