成功する起業家は革命家である

新田 哲史

どうも新田です。何度もいいますが私は政治ライターではなく、本業は企業PRやメディア戦略のアドバイザーです。そういうわけで久々の企業イベントネタですが、本日はエグゼクティブ転職サイト「ビズリーチ」でおなじみの株式会社ビズリーチさんの新サービス発表記者会見に行ってまいりました。野球記者時代からの飲み友達である同社社長の南壮一郎さんが起業された当時から存じ上げてはおりますが、「社運をかけた新事業なのでぜひ」とお招きを受けたのですが、初めてのことで「余程のことだろうな」とピンときた次第でした。


ビズリーチ
ビズリーチといえば、去年は企業広報、PR会社が目標にしているテレ東のWBSで数ヶ月連続で取り上げられるといった、際立った広報力がネット業界、人材業界ではよく知られています。私が(友人としての世辞を抜きに)すごいと思うのは、アジェンダ設定の絶妙さです。

「社長公募」「肉食採用」「ダイレクト・リクルーティング(企業が直接、求職者を採用)」……打ち出す際も世間が注目しやすいコピー作りもうまいんですが、さて今回はどうするのやら、と。それで会見直前、控え室前を通りかかった際にご本人と短時間、お話すると、ニヤッと笑いながら「“採用革命”で行く」とおっしゃるわけです。ほほう。

それで蓋をあけた新サービスが「スタンバイ」。詳しいスペックはテッククランチの速報記事がよく書けているんでご参照いただきたいんですが、超かいつまんで言うと、中小企業や地方企業の求人情報を集めた“グーグル”。それも掲載する側の小さな会社は無料で利用できるというわけです。
standby
ここまで読んだだけでは何が「革命」なのか?ピンとこない人もいると思うので補足すると、同社曰く、中小企業にとっては「採用コストが高い」ことと「採用方法がわからない」の2点がネックになって、良質な人材を取るのが難しいわけです。昨今の人手不足経済を背景に、新卒でいえば学生の売り手市場、大手企業が有利になっているというロスジェネ世代の私から超絶うらやまなご時世なわけですが、それなりに知られた就活サイトに広告を出すとなると数十万~百万単位のカネがかかるわ、応募管理や採用制約の手数料等々、コストかかりまくりなわけです。

先日、鈴木寛文科省補佐官が中小ベンチャー企業の人材採用について「訳あり人材」の登用等の戦略的採用を提言されていたのですが、そもそも論としてお金がない零細企業も多い。実際、私も広報コンサルしている会社でも予算の制約、日々の業務のひっ迫状況とのにらみ合いで中途採用に苦労しているのを見てきただけに、「スタンバイ」は魅力的だとは思います。最近刊行された中小企業白書でも、半数近い企業が中核人材の確保に「0~10万円以内」と回答しており、「社会的な課題なんだよね」と南さん。地方創生で人材移転の重要性に気づかれながらも苦戦している中で、民間レベルでボトルネック解消が追求されることは地方には心強いと思います。
中小白書
また、地方、それもネット利用の意識が薄い田舎には、まだまだ「掲載されていない求人情報が膨大にある」のが実情。本家グーグルが理念に掲げる「世界中の情報を整理し、世界中の人々がアクセスできて使えるようにする」ではありませんが、日本国内の埋もれるお仕事情報を可視化する壮大な取り組みが進化したときのことを考えると、「ビジョン先行で当面は収益を追わない」と苦笑する南さんの脳裏に、とてつもないフロンティアがイメージされているんじゃないのかと察しました。

振り返れば、創業時7人で本格スタートした会社も6年で500人を超える急成長。これが「上場ゴールだけが目当てのストライカー」起業家ならもうエグジットというところでしょう。南さんもそろそろ嫁さんと上場含み益のダブルゲット・タイミングなんだろうと勝手に推測していたわけですが、目先の利益を追わず、ビッグリスク、ビッグリターンの勝負に踏み切ったあたり、この人の本質はやはり革命家であり、楽天のプロ野球参入時代から一貫しているんだなと思ったわけです。

そんな書き方をすると、友人としてのコテコテのお世辞なんじゃないの?と突っ込まれそうではありますが、この日の記者会見冒頭で彼が掲げていたスライドはこちら。
ビズリーチ1
なんだか意識高い系でも今更こんなベタなミッション掲げないだろうと思いつつ、このわかりやすくてシンプルで情熱的なメッセージ。そして初心を忘れない自問。
ビズリーチ2
ここまで拝見していると、インターネットを使って社会にイノベーションをもたらすことを大前提としてて、就職・転職ビジネスはその一つの形態に過ぎないんじゃないかと思うわけです。南さん、ビズリーチのここまでの快進撃の秘密として、一時期、経営やPRの手法にばかり目がいくこともありましたが、結局、根源的な思いに行き着くんだなとも感じまして。

目先の儲けよりも世の中を変えることを優先する、とカッコつけることならいくらでもできます。しかし、実際に行動に移し、チャレンジする人は、成功している人ほど難しいですね。一代でタリーズコーヒージャパンを育てた起業家でありながら、政治の世界に転身してスタートアップ政党を切り盛りする松田公太さんとも共通する要素を感じますが、残念ながら南さんは政治の世界には興味がまったくないようで(苦笑)選挙案件の候補者スカウトもやっている私としては、優秀な経営者経験者が政界になかなか参入してくれないことが歯がゆいところですが、スタンバイが将来的に成功して利益出まくったらビズリーチにはCSR案件で「政治家志望者スカウト」サイトを作ってくれると嬉しいです。スタンバイ、さっそく使ってみよう。ではでは。

新田 哲史
ソーシャルアナリスト/企業広報アドバイザー
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