韓国で大々的に取り上げられた慰安婦問題声明

韓国メディアに大きく取り上げられていたのが、日本の「歴史学研究会」や「日本史研究会」などの16の団体が、国会内で記者会見して発表した、従軍慰安婦問題の強制連行は否定出来ない事実で、それから目をそらすことは近隣諸国との緊張を増すだけだとする声明です。 しかし、検索してみると、日本でこの声明を取り扱ったメディアはNHKとしんぶん赤旗ぐらいで、あとは日刊ゲンダイぐらいでしょうか。


声明文の詳細は、こちらでお確かめください。
「慰安婦」問題に関する日本の歴史学会・歴史教育者団体の声明 – 東京歴史科学研究会

ふたつの点がよくわかりません。なぜ今のタイミングで何を意図してそんな声明を出す必要があったのかと、韓国メディアが嬉々として取り上げるのは理解できるのですが、 なぜ国内メディアはほとんどが取り上げなかったのかです。日本のメディア総スカンの状態というのは、いかに歴史学者が束になってかかっても影響力がないということでしょうか。

タイミングについては、政治的に考えれば、米国でも韓国の慰安婦キャンペーン疲れがでてきていて、また韓国国内ですら反日姿勢を貫く現在の外交への疑問がではじめていたさなかでした。朝鮮日報が典型ですが、「韓国の国益を害す歪んだ対日認識」という 尹平重(ユン・ピョンジュン)韓神大学教授のコラムの寄稿があった翌々日に、「歴史学研究会」などの声明文が取り上げた記事が掲載されたのが象徴的でした。韓国の反日世論を呼び戻す動きを導き出したのです。
韓国の国益を害す歪んだ対日認識(朝鮮日報)

今月初めに米ハーバード大学のエズラ・ボーゲル名誉教授らの安倍政権の歴史修正主義を批判した流れを受けてのものなのか、あるいは中央大学の吉見義明教授が、日本維新の会の桜内文城衆議院議員を名誉毀損で訴えた裁判の署名活動を盛り上げようというのでしょうか。

吉見教授については、池田信夫さんが厳しく批判されています。

最初、朝日は吉田清治のいうような「慰安婦狩り」が多数行なわれたと報道したのに、それが嘘だとわかると「挺身隊の強制連行」にすり替え、それが嘘だとわかると「強制性」に定義を拡大してきた。こういうごまかしの主犯が吉見義明氏だ。

池田信夫 blog : 主犯は吉見義明氏である

あまりに政治的な色彩を色濃く感じるタイミングなり、しかも「学会」として声明をだすという行動に驚かされるのですが、声明文の中味を見てもなにか釈然としません。

たとえば、声明文にはこんな記述があります。

強制連行された「慰安婦」の存在は、これまでに多くの史料と研究によって実証されてきた。強制連行は、たんに強引に連れ去る事例(インドネシア・スマラ ン、中国・山西省で確認、朝鮮半島にも多くの証言が存在)に限定されるべきではなく、本人の意思に反した連行の事例(朝鮮半島をはじめ広域で確認)も含む ものと理解されるべきである。

よくわからないのは、「多くの史料と研究によって実証」されてきたというのであれば、政治的な声明文を出す前に、広く日本の国民に知らせることが筋だと思います。これだけ長い間議論されてきて、「日本軍」による確たる連行の証拠がない、あるいは乏しいからなかなかスッキリした結論がでないままなのです。
諌山裕氏もブログでその点を指摘されています。
『「慰安婦」問題に関する日本の歴史学会・歴史教育者団体の声明』に足りないこと

あとは「本人の意思に反した連行」すべてを含め、際限なく「強制性」の範囲を広げていけば、たとえば極端な話として、韓国人の女衒が若い女性を拉致して慰安所に売り飛ばしても「日本軍による強制連行」になってしまいそうです。問題がなになのかを明らかにしていくためには、また日韓でコンセンサスをつくるためには、「強制性」を情緒でなく、客観的な定義でとらえることが必要なはずです。

しかし、韓国が従軍慰安婦問題で政治的な反日キャンペーンを続けることで、日本の国民はほんとうに嫌気をさしてしまっています。もはや「嫌韓」ビジネスも成り立たないと感じるぐらい、韓国をスルーする雰囲気になってきています。

慰安婦問題について韓国の態度に辟易とするのは、今の現役世代でなくとも、すくなくとも団塊の世代前後でも、売春が非合法化されたなかで育ってきたので、いくら韓国が批判しようとリアリティがないのです。それを謝れと言い続けるのですから感情的に反発が起こって当然です。

日本は戦後の早い時点、1956年に売春防止法が制定され、1957年から施行されています。まだ当時は小学生でしたが、近くに遊郭があって、近隣の商店街もずいぶん賑やかだったのですが、売春禁止法の施行を境に町が寂れていったことが鮮明に記憶に残っています。売春については、一部では現代も存在するとしても、厳しく取り締まってきた日本です。

韓国はどうかというと、「性売春特別法」が制定されたのがなんと2004年になってからで、それまでは外貨を売春で稼ぐキーセン観光などが政府容認のもとに公然と続けられていました。キーセンも貧困からそうせざるをえなかった、歴史学会で言う強制性があってキーセンにならざるをえなかったのでしょう。

恥ずかしいことに、日本からもそれを目当てにした団体旅行が組まれていました。それよりも犯罪性を感じるのは、朝鮮戦争やベトナム戦争時に設けられていた慰安所です。それも韓国が政権ぐるみでやっていたのですから、それで日本だけを批判するのもどうかと感じてしまいます。
実際、朝鮮戦争休戦後、在韓米軍基地周辺で米兵を相手に売春をさせられたとして韓国人女性122人が韓国政府に賠償を求める訴訟をソウル中央地裁に起こしています。
元「米軍慰安婦」が韓国政府を提訴 韓国人女性122人:朝日新聞デジタル

服藤早苗教授が従軍慰安婦の強制動員を否定する人々は少数で、専門家ではないと発言をされ、朝鮮日報の記事タイトルに使われているのですが、いつから史実は多数決で決まるようになったのでしょうか。しかも少数であれ、反対の立場の人をばっさり切ってしまうのは、人権の衣を被った新しいファシズムを感じます。
慰安婦:日本人学者「否定する人々は専門家ではない」

テレビに出て『慰安婦を強制動員したという証拠はない」という政治家や学者がいるが、そのような人々は多数ではなく、専門家でもない。史料をきちんと研究した人は誰もが慰安婦問題を認め、実際には私たちのように考えている学者が多数だ。

こんな政治的な意図を感じ、韓国で利用されるのがわかりきっている声明文を出す前に、学者として、きちんと史実にもとづいた議論を重ね、国民のコンセンサスを形成する努力をすべきじゃないでしょうか。