成長をやめたら幸せになるの?

池田 信夫

安倍首相は「成長戦略」で日本が昔のように成長できると思っているようですが、見田宗介さんとか内田樹さんとか「リベラル」な人々は「成長をやめたら幸せになる」といっています。こういう金持ちのおじいさんにとってはそうでしょうが、よい子のみなさんはどうなるんでしょうか?

以前にも紹介した未来のシミュレーションでも書いたように、今の社会保障のまま成長がゼロになると、2035年にはみなさんの給料の6割が天引きされます。手取りの所得は今より3割以上へり、みなさんはおじいさんの世代より大幅に貧しくなるのです。

これは税金のせいではありません。このシミュレーションは、所得税率を今と同じとして計算したものです。これから爆発的に増えるのは、年金や健康保険などの社会保険料なのです。これは人によって違うので、消費税のように政治的な争点にはなりませんが、すでに多くのサラリーマンでは、所得税より社会保険料のほうが多いはずです。

「リベラル」のおじいさんたちは年金をもらう側なので、こういう問題を知らないか、知らないふりをしてるんでしょう。次の図のように、彼らは払った保険料や税金より4875万円も多く受け取ることができます。それに対してよい子のみなさんの世代は、払った保険料より4585万円も少ない年金しかもらうことができません。合計すると生涯所得の差は、9460万円です。


世代別の社会保障の負担額と受給額(出所:経済財政白書)

9000万円もあればかなり大きな家が買えるので、これはわかりやすくいうと、おじいさんの買った家の住宅ローンをみなさんがすべて払うようなものです。今はみなさんの世代3人でお年寄1人をやしなっていますが、それが10年後には2人で1人になり、30年後にはみなさん1人でお年寄1人をやしなうことになります。

成長をやめると、よい子のみなさんはますます貧しくなるので、成長は必要ですが、成長をめざしてもできるとは限りません。アベノミクスでお金をばらまいても、株価は上がりましたが、去年の成長率はゼロでした。大事なのは、成長しなくても維持できるしくみにすることです。

今の社会保障がゆがんでいるのは、おじいさんが悪いのではなく、成長しないと維持できないしくみだからですが、これを直そうという政治家はいません。投票する人の半分以上が60歳を超えているからです。小選挙区で過半数の票をとるためには、お年寄りが損する政策をかかげるわけにはいかないのです。

これを「シルバー民主主義」とよぶ人がいますが、特に変な民主主義ではありません。民主主義は多数決なので、お年寄りが多数になったら、多数派に有利な政治をするのは当たり前です。それがいやなら、民主主義以外の方法を考えるしかありません。