住宅市場の行方

住宅市場をパソコンで打ち間違えたら「住宅死蔵」と出てきました。思わず、苦笑いしましたがこれは案外、間違いではなく、今の日本の住宅のあり方をそのまま表していると思います。

日本人が「新しもの好き」である一つの理由は新しいものには必ず改善があることで購入者をわくわくさせるからでしょうか?住宅も古くなれば壊し、新しいものを建てるのは日本人のメンタルにもフィットしていると言えそうです。


しかし、私はこの30年余り続く日本のマンションブームもいつまでも続かない気がしています。それはマンションライフが必ずしもライフスタイルの多様化に対応していないからであります。30階建てのマンションは金太郎飴ごとく、同じ間取り、同じライフスタイルが待っています。違うのは窓からの眺めの角度ぐらいでしょうか?

マンションはもともとは戸建に住めない人たちの為の低廉な住宅でした。公団住宅に対して民間デベの作る物件が魅力的であることからついたマンションという和製英語は英語ではアパートメントであります。北米ではやはり低廉賃貸住宅としてアパートメントが普及していました。が、20-30年前からコンドミニアムというカテゴリーが市場で大きく成長し、ごく普通になってきました。理由は戸建住宅では広すぎて子供が巣立ってしまった家庭では管理が大変だからであります。これらエンプティネスター層にしてみれば庭のメンテから電気代、掃除に固定資産税にセキュリティを考えれば同じクオリティでより小さいものを求めるという発想の転換があったわけです。

北米のコンドミニアムも地域によっては1億円では大したものは買えません。不動産広告を見ても2億、3億というのが目につきます。明らかに北米ではコンドミニアムは別の不動産として進化したと言ってもよいでしょう。

実はその成長には日本にはあまりないもう一つの違いがあります。それはコンドミニアムの購入者は往々にして大規模な内装の改修工事を行うという事です。私の住むコンドでも年中どこかの家で改修工事が行われており、時としてコンクリートを斫るハンマーの音が響き渡っています。そこから生まれ変った住居はもともとは金太郎飴だった新築コンドミニアムがびっくりするほどの「ビフォーアフター状態」で個性豊かなデザインに変貌しているのです。

私がコンドを開発していた時、ユダヤ人のコンサルが一言、「内装はシンプルであとで替えやすいように」と助言してくれました。当時はせいぜい壁の色を好きにしたいぐらいの理解だったのですが、コンドの住民もより個性を求め、今や大改装が当たり前になっています。それが素晴らしければ素晴らしいほど価値を生み、例えば2000万円かけて改装すれば4000万円高く売れるということすら起きているのです。

日本の不動産取引で中古住宅はざっくり全体の1割。これに対してアメリカは全体の9割です。日本では中古が流通しにくい独特の理由があります。それにしても今や空き家住宅が全国で800万戸以上ある一方で年間80万戸以上の新築が作られています。人口減が続く日本に於いて壊す住宅が相当あるにしてもこの数字のからくりは論理的な流れではありません。

中古住宅が売買対象にならないのなら空き家を改装し、賃貸に回し、新たなるライフスタイルを提供すべきでしょう。例えば大きな戸建なら家主が管理するシェアハウスではなく住民が主導するシェアメイトを募集し、助け合いのライフをするというのもあるでしょう。(シェアメイトは親と称する賃借人が部屋の一部をほかの人にまた貸し(サブリース)するものです。これはカナダのアパートではよくある手法です。)

住宅の内装は金のかけ方でいかようにもなりますが、建物の外装、壁紙、水回りを重点的に変えるだけで見違えるようになります。また、一時期に大金をかけて回収するのではなく、毎年、少しずつやっていくのも住宅を長持ちさせ価値を維持する秘訣と言えましょう。

日本の住宅に対する価値観はこれから10年ぐらいの間に大きく変化する可能性があるのではないでしょうか?

今日はこのぐらいにしておきましょう。

岡本裕明 ブログ 外から見る日本 見られる日本人 5月28日付より