先日NHKで俳優 渡辺謙のブロードウェイミュージカル「王様と私」を中心とした彼の生き方を放送していました。ご覧になられた方も多いでしょう。映画、ドラマで活躍している彼の名声をゼロまで落とすリスクがあるミュージカルの舞台に55歳の彼が挑戦する姿に非常に感動しました。
考えてみれば、もともと国内俳優が一歩踏み出して「ラストサムライ」に挑戦したところから彼の人生は他の俳優と一段違う世界に進んでいったと思います。彼はそれまで英語が出来なかったのにそれを克服し、更にクリントイーストウッド氏の目に留まり、「硫黄島からの手紙」で主演を勝ち取っています。しかし、ブロードウェイのミュージカルは全く違う世界であると言っても過言ではありません。それは単にミュージカルの舞台であるだけでなく、辛口のニューヨーカーが相手であるという事です。
ヤンキーズ時代の松井秀喜選手がチャンスで打てないと翌日の地元紙には厳しい論調の記事が出ていましたが、それはニューヨーカーがベストオブベストを求める独特の空気を持っているからでありましょう。ブロードウェイでも厳しい目線でそれをチェックします。私が昔、ブロードウェイのミュージカルによく出かけていた頃、出来の悪い舞台は芝居が終わる前に客はさっさと帰るという話をよく耳にしました。
また、舞台は映画撮影と違い、やり直しができません。セリフのとちりも許されません。そういう意味では渡辺謙氏は多くの人から見ても十分な成功を収めているのになぜ、今、また新たな挑戦だったのでしょうか?
自分を極める、という言葉があります。その世界である達成をすればその次、またその次と挑戦していきます。登山家が新たなる山に向かい続けるのと同じでしょう。高いレベルに向かい、今までの自分が何だったか完全否定され続けながら自分の世界を見つめ続ける、これを渡辺氏も求めているのでしょう。
では我々の世界ではどうでしょうか?
私の周りにはアーリーリタイアメントしつつある人がいます。北米では確かにそういう傾向はあります。十分稼いだと言ってテンションを下げてしまうのでしょうか?しかし、人生はお金を稼ぐことが全てではありません。80年なり90年なりの人生をどれだけ充実させるかではないかと思います。人生後半になり、全く違う分野で新たな挑戦をする人もいます。あるいはそれまで培ってきたノウハウを生かしながら専門家として第二の人生を送る方もいます。
北米のアーリーリタイアメントをする人は私の知る限り、第二の挑戦をする人が多い気がします。ところが日本人にはゴルフ三昧、旅行に美食で悠悠自適を語る人もいます。人の人生ですから何も申し上げませんが、そういう方は加速度的に歳をとっていかれます。一方、75歳で現役バリバリの人ははつらつとしています。
人生前半の人はどうでしょうか?会社に入り、安定感を持ったところでほっと一息ついている人が大半でしょう。しかし、会社の仕事はほとんどが受身で若いうちは能動的に仕事をする余裕などないはずです。そんな社会人生活を送っていると30歳頃には能動という発想そのものが無くなってしまう人が実に多いことに残念な思いすらします。
私のところのシェアハウスである日曜日に昼、ランチ会をしようと声をかけたところパラパラしか集まりません。「あれ、みんなお出かけ?」と聞けば「みんないますよ、だけど寝てる」と。昼まで寝ていて午後からだらだらと過ごして夜になって元気が出るという生活に人生もったいない、と嘆いてしまうのは私だけではないでしょう。
朝、30分早く起きて書を読む、運動する、何か習う、といったきっかけだけでも作ってみたら大きな発見があるかもしれません。人生なんていかに充実させるか、それに尽きると思うのです。渡辺謙さんを私も見習ってみたいですね。
今日はこのぐらいにしておきましょう。
岡本裕明 ブログ 外から見る日本 見られる日本人 5月31日付より