米連邦準備制度理事会(FRB)が3日に公表したベージュブック(4月初めから5月後半までカバー)は、春の到来を追い風に成長軌道をたどっていることを確認しました。ダラス連銀がまとめた今回のベージュブックでは、景気動向に対し「経済は、拡大した(expanded)」と総括。概して2014年12月、1月、3月に公表した分の表現を据え置いています。ただし製造業を中心に、ドル高への懸念は前回より引き上げられています。
リッチモンド連銀、シカゴ連銀、ミネアポリス連銀、サンフランシスコ連銀の4地区連銀は、「緩やかなペース(moderate pace)」での拡大を報告。前回の5地区連銀からダラス連銀が脱落していました。一方でニューヨーク連銀、フィラデルフィア連銀、セントルイス連銀の3地区連銀は、前回と同じく「控え目(modest)」だったといいます。ボストン地区連銀は「まちまち(mixed)」で、前回の「拡大した(expand)」から下方修正。クリーブランド連銀とカンザスシティ連銀は「わずかなペース(a slight pace)」と表現しており、カンザスシティ連銀は前回の「安定的(steady)」から修正しています。アトランタ連銀に加え、ダラス連銀は「安定的(steady)」でした。
製造業活動は前回の「まちまち(mixed)」だったものの、今回は原油安の直撃を受けるダラス連銀以外は「安定的あるいは拡大(steady or increaed)」へ上方修正されました。改善の兆しを見せつつ、前回に続き「ドル高(strong dollar)」の文言が13回も登場し、前回の10回から増加していました。米5月ISM製造業景況指数や米4月製造業受注の減速と、整合的です。
ドル高をめぐるネガティブ要因として、地区連銀から以下のような報告が上がっていました。
・クリーブランド連銀「成長の阻害要因」、「鉄鋼業に打撃」
・リッチモンド連銀「自動車部品の需要を抑制」
・シカゴ連銀は「製造業の売上を押し下げ」
・ダラス連銀「一次金属の需要低下」、「石油精製所での利益率縮小」、「観光客の支出減少」
ドル高の悪影響、利上げ警戒で一段と強まるのか。
(出所:Bloomberg)
消費者動向は、全般的に「拡大(increased)」していました。ただしリッチモンド連銀は「変わらず(unchanged)」、ニューヨーク連銀にいたっては「わずかな減少(fell slightly)」を報告。フィラデルフィア連銀も、イースターのカレンダー要因を背景に前年比で「減少(down)」と指摘しています。ボストン連銀、クリーブランド連銀、カンザスシティ連銀の3地区連銀は、前年比で「強い需要(stronger demand)」を確認しました。西海岸の港湾ストライキ収束後にニューヨーク連銀は悪影響が軽減されたと伝えるも、クリーブランド連銀、アトランタ連銀、ダラス連銀は引き続き悪影響を報告。見通しは、概して「前向き(positive)」で年内は拡大を続けると見込んでいます。
雇用は、地区連銀全体で「わずかに上向き(up slightly)」を示し、前回の「安定的あるいは小幅に改善(remained stable or improve modestly)」からトーンがやや後退しました。賃上げ圧力は「わずかな伸び(slight growth)」とし、前回の「控え目(modest)」とほぼ変わらず。ボストン連銀、ニューヨーク連銀、フィラデルフィア連銀、クリーブランド連銀、リッチモンド連銀、アトランタ連銀、シカゴ連銀、カンザスシティ連銀と8地区連銀で「人材不足(labor shortage)」を報告。一方でセントルイス連銀、ミネアポリス連銀、ダラス連銀など石油生産、シェールガス関連企業を抱える3地区連銀では「レイオフ(layoff)」の例が出てきました。物価については「安定的あるいはわずかな上昇(stable or edged up)」にとどまり、前回の「安定的あるいは緩やかな上昇(stable or modestly increasing)」から若干の下方修正となっています。
原油安を背景に石油・天然ガス採掘作業はアトランタ連銀、ミネアポリス連銀、カンザスシティ連銀、ダラス連銀、サンフランシスコ連銀といった5地区連銀にて「低下し続けた(continued to decline)」といいます。特にシェールガス関連が多いミネアポリス連銀の間では、回答者の75%が売上や設備投資の半減を報告。一方、クリーブランド連銀はウティカやマルセラスといったシェールガス田でのリグ稼働数の減少に歯止めが掛かりました。
農業は、深刻な干ばつに見舞われるサンフランシスコ連銀以外が「改善(improve)」を報告。アトランタ連銀、ミネアポリス連銀、カンザスシティ連銀、ダラス連銀で特に好転が見られたといいます。
今回、サマリー部分で使用されたキーワードの登場回数(同じ単語の変化形を含む)は以下の通り。
「増加した(increase)」 →24回、前回は15回
「強い(strong)」(注:強いドルの表現を除く)→20回、前回は13回
「緩やか(moderate)」 →6回、前回は4回
「穏やか(modest)」→4回、前回は6回
「弱い(weak)」→14回、前回は8回
「底堅い(solid)」→3回、前回はゼロ回
「安定的(stable)」→9回、前回は9回
BNPパリバのデレク・リンゼー米エコノミストは、今回の内容を受け「各連銀の報告を含めたベージュブック全体で『弱い (weak)』とする文言の登場回数は52回」と伝えています。4月公表分の44回に続き、2012年以来で初めてとなる過去平均の31を上回ってしまいました。なお3月公表分の22回、1月および2014年12月の17回。その半面、ベージュブックは「強い(strong)」との表現も格段に増加。米4-6月期国内総生産(GDP)には回復期待が募るとはいえ、方向性を見出しづらい内容に終わりました。
(カバー写真:Tim Evanson/Flickr)
編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2015年6月3日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった安田氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。