成長期待が大きいクラフトビール市場

岡本 裕明

暑くなるこの時期、ビールが実に美味しく感じます。特に西海岸は気温が高くなる一方で乾燥している為、思った以上にのどが渇きやすくなっています。そんな中、うまいビールの一口目は格別なものがあります。私の最近行きつけのあるパブ。そこのカウンターバーに座ると生ビールの蛇口(faucet)がずらっと20本以上並び、本当のパイントサイズのビールを提供してくれます。


パイントとはビールの量のことでカナダの場合には英国パイントが基準となっており、568mlとなります。この正式な量を提供するパブは実はあまりなく、以前、当地の新聞でもパブ比較の記事があり店によりビールの量はバラバラでありました。

ここカナダでも最近酒屋でクラフトビールの種類がめっきり増えてきました。いわゆるブームなのだろうと思います。つい数年前まではビールといえばナショナルブランドの特徴のないビールか輸入物が主でした。ところがこの1,2年は明らかにクラフトビールが主戦となっており、私も酒屋ではクラフト系しか購入しなくなりました。特に売れ行きが好調なのがIPA(=Indian Pale Ale)と称する種類で上述のパブでは4種類のIPAが売り切れることすらあるのです。

最近日本でビールを購入しようとしたところ、ある違和感を感じました。それはビールが会社の名前とそのブランド名で売られており、ビールの種類が記されていないのです。冷蔵庫でガンガンに冷やしているので多分、ラガーかピルスナーなのでしょうけれどある意味日本のビール市場がまだ成長していない証であるともいえそうです。

また、先日、東京駅近くのパブに友人と行ったところビールの選択肢が数種類しかなく、心の中で思わず、ここはパブではないと叫んでしまいました。

ワインは赤、白以外にそのブドウの種類により基本のテイストが全く違います。それと同様、ビールも上面発酵と下面発酵で全く違うものが出来、飲む適温も色が濃くなるほどやや高くなり、スタウトぐらいになると20度ぐらいでもよいとされています。それぐらい種類が豊富なビールは標準的なリストだけでもざっと60種ぐらいもなります。

そう考えると日本の4大ビール会社はビールのマーケティングが発泡酒といったより安いビールもどきを開発することに力を注ぎ込み、本来のビールの奥深さを追求してこなかったような気がします。あれではビールの技術者が泣きます。

そんな中、クラフトビールのヤッホーブルーリングが作り上げたテイストが星野リゾートの目に留まり、更にキリンビールと提携する流れとなったのは市場が変化してきている証かもしれません。あるいは日本クラフトビールという会社は日本で開発したものをベルギーで生産し、逆輸入する手法で驚異的な売り上げの伸びを記録しています。正にニッチマーケットが拡大しつつある状況にあるのです。

これらクラフト系のビール会社は製造が全く追い付いておらず、各社設備増強に追われ数千キロリッターの対応まで引き上げています。キリンと手を組んだヤッホーは現在供給能力5000キロリッター以上あるとされますが、ローソンとの共同開発、「僕ビール、君ビール」は手に入らなくて2缶目が飲めない状態です。

アメリカのパブで地ビールを注文すると6-7種類のビールの名前を早口で言われて閉口してしまうことがしばしばです。地ビールですから旅行者の私がそのビールの特徴を知るわけありません。つまりビール大国アメリカでもワインの様にそのこだわりがまだ浸透していないのかもしれません。ならば日本の市場ではまず、クラフトビールの市場を作るためにビールの種類と特徴を啓蒙するべきでしょう。それにはワインリストの様にそれぞれのビールの味の特徴をひとことかいたビールメニューを用意するぐらいは必要でしょう。

若者がアルコールを飲まなくなったと言われますが、それは安くてまずいものを飲ませたことも理由の一つではないでしょうか?アルコール度数8%程度のストロング酎ハイが500ml缶で140円程度で売られていますが、これを飲んでいると後味が悪いことに気がつきます。ですが、この開発者はデフレ時代に手っ取り早く酔っ払えるものを作ったと以前、どこかで読んだことがあります。

こんな安酒で酔っ払うのではなく、本物の味を是非知って作って、クラフトビールを飲みに日本に行こう、ぐらいのマーケティングをしてもらいたいと思います。

今日はこのぐらいにしておきましょう。

岡本裕明 ブログ 外から見る日本 見られる日本人 6月7日付より