深圳の発展、香港の停滞

ひと月程前SankeiBizに「中国・深セン、漁村が金融都市に変貌 年内に香港GDP抜く勢い」という記事があり、その中に「深センの経済規模は2014年までの5年間で1兆6000億元(約31兆円)へと、ほぼ倍増した。このペースでいけば、年内に景気が一段と減速している香港を上回る見通しだ」との記述がありました。


同市には、先々月末のブログで挙げた世界の商用市場シェアで推計70%を誇るドローンベンチャーのDJI他、通信機器大手の華為技術(ファーウェイ)やネットサービス大手の騰訊(テンセント)等々と、成功した数多くの中国企業がその拠点を置いています。

中国は恐らく今、深圳の発展ということに非常に力を入れており、それは深圳が香港に隣接しているということが最大のポイントだと思います。当然中国としては香港の住民に対し、「対岸に位置する珠江デルタの小さな漁村にすぎなかった」深圳が如何に急発展して行くか、という姿を単純に見せたいのだろうと思います。

香港の市民というのは、中国より遥かに進んだ経済的豊かさ及びその自由度の高さといったことをずっと謳歌してきた為に、そういうものを失いたくないとこれまで思ってきたことでしょう。それも彼らが本土と一つになりたくない理由であったのだろうと思います。ここのところ中国は香港に対し様々な圧力を急速に掛けているよう見られます。

例えば先週金曜日のNHK「NEWS WEB」記事にも、今香港では「去年の香港の選挙制度改革を巡る学生らによる抗議活動が当局に強制的に排除されたことを踏まえ、天安門事件の記念日を香港の民主化を考えるきっかけにしようと(中略)、中国全土の民主化よりも足元・香港の民主化を優先させるべきだなどという意見」の高まりが見られるとの指摘がありました。

全人代常務委員会が昨年8月末決定した此の17年香港長官選で「民主派からの立候補を事実上排除する枠組み」も年々強まる中国の政治的圧力の一つでありますが、深圳の相対的繁栄ということも言わばその経済的圧力の一つでしょう。

冒頭の記事引用を挙げるまでもなく、片や今大変な経済成長を謳歌し片や凋落傾向にあるといった状況が、中国の狙いであると考えられます。香港の隣に位置する深圳には沢山の香港市民も不動産を有しておりその往来は容易ですから、中国としてはその彼らに深圳を見せて「香港は停滞してきているのに中国経済はこんなにも発展しているのか」と思わせ、「これは流石にもう中国には勝てんなぁ」というふうにしたいのでしょう。

また最後に一言、此の深圳の金融的位置づけに関して触れておきますと、之は嘗て当ブログでも『香港金融市場と中国人民元』(12年7月4日)等で述べたことがあります。上記の通り中国は一方で香港を取り込むべく様々な圧力を掛けながら、片一方では例えば香港・深圳間の株式相互取引も近く解禁するといった具合に色々なファンクションを持たせつつ、金融分野の一体化と香港を中国の世界の窓口としての位置付けを明確にするという狙いがあると思います。

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