予期せぬ保護者との別れや激しい虐待などにより、「緊急保護」が必要になった児童たちは、どこに行くかご存じでしょうか?
なんらかの事情で社会的養護が必要になった子どもたちが里親の元や児童養護施設で暮らしていることは、過去記事で折に触れてお伝えしてきました。
社会的養護に関する過去記事は↓
http://otokitashun.com/tag/%E7%A4%BE%E4%BC%9A%E7%9A%84%E9%A4%8A%E8%AD%B7/
しかし、何らかの事情が発覚したらすぐに、里親の元や児童養護施設に行けるわけではありません。
本人の状態を見極め、最適な保護先を探すには時間が必要です。
かといって、例えば虐待を受けている子どもを、検討している期間中に親元に残しておくことはできません。
その間に緊急回避的に子どもたちが暮らす場所が
「一時保護所」
と呼ばれる施設であり、各児童相談所によって運営されています。
■
そして他の社会的養護の分野と同様、この一時保護所にもいま、多くの問題点や課題が指摘されています。
その象徴的なものが、昨日のブログにも掲載したテレビ報道です。
動画を見る時間がない方のためにかいつまんで内容を説明しますと、元一時保護所の従業員であり、子どもたちの支援活動を行っている男性による告発を元に、一時保護所の実態をレポートした内容です。
「乱暴な口調での命令や、ときにスタッフから暴力を振るわれることがある」
「施設内では、私語や目配せは厳しく禁止される」
「体調が悪くてもトイレに行かせてもらえず、粗相をしてしまった子がいた」
「逆らうと『個別』と呼ばれる隔離措置や、運動場100周などを強いられる」
など、一時保護所のスタッフによる威圧的な対応が、実際にこの場で生活していた子どもたちの言葉で生々しく語られています。
これがすべて真実なら、もちろん由々しき事態です。
虐待や貧困から逃れてきたシェルターで、さらに大人たちによって抑圧や恐怖に晒されるのは、子どもたちにとってあってはならないことです。
この報道内容について東京都は、
「事象を断片的に切り取ってつなげたもので、事実を表したものではない」
としています。
確かに私語を禁じる場面もある、厳しい言葉で指導することもある。
しかしそれらはすべて、
「子どもたちの安全」
を守るために必要不可欠な行為だったのだ…と。
双方の主張を、どのように読み解けばいいのでしょうか。
■
まず、一時保護所の基本情報について共有します。
(写真は昨日視察に行った児童相談所で、一時保護所ではありません)
二か所の一時保護所を視察しましたが、どちらも定員は50名前後。
近年の虐待件数の飛躍的な増加を反映して、常に保護所は定員いっぱいだそうです。
虐待などから「保護」されてきた子ども等が多くを占めるため、加害者から彼らの安全を守る必要などから、一時保護所にいる間は子どもたちは学校や保育所・幼稚園に通うことはできません。
施設の中には教室などもあり、バラバラの年齢や背景を持つ子どもたちが保護所のスタッフから勉強を教えてもらう生活を続けていくことになります。
「安全を守るため」外出は厳しく管理され、事実上、特別な事情がない限り子どもたちは自分の意思で外に出ることはできません。
これらの対応は、あくまで「一時的なものだから」許されるものだと言えるでしょう。
ところがこの一時保護所の子どもたちの滞在期間は、1週間や2週間という単位ではないことがほとんどです。
平均滞在期間は40日弱。
法律上最長は二ヶ月とされ、それ以上に及ぶときは審議会の認可が必要になりますが、親元に帰れない、措置先も見つからない児童が1年以上滞在するケースもあります。
繰り返しになりますが、この一時保護所にいる間の子どもたちは学校に行くことも、自分の意思で外出することもできません。
施設の中が、その子どもたちのすべての世界となります。
加えて一時保護所は、やむをえぬ事情で緊急保護されてきた、いわゆる「ホット」な状態の子どもたちで溢れています。
精神状態も極めて不安定で、問題行動も多くなることが予想されます。
例えば保護者の「ネグレクト」が原因で非行に走り保護されてきた子どもと、保護者から虐待をされて緊急保護されてきた子どもが、同じ空間にいます。
子ども同士の力関係がどうなるか…想像には難しくありません。
他の子どもに危害を加えようとする子供がいれば、職員は強い口調を用いたり、ときに腕力を使ってでも他の子どもの安全を確保しなければなりません。
弱いものが、さらに弱いものを叩く。
それを静止するために、職員は時に威圧的な行為を行う。
その光景が自分自身を虐待してきた「大人」の姿に重なる…
このように、「ホット」な状態で保護された子どもたちは、安全なはずの避難施設の中で、ありとあらゆる恐怖と隣り合わせになってしまうのです。
■
こうした一時保護所の人員は、まったく十分とは言えないのが実情です。
50人もの精神状態が不安定な児童が寝泊りしているのに、夜勤をするスタッフは2名ないしは3名。
これでは何か問題行動を起こす子どもが出たり、夜間に児童が緊急搬送されてきた場合などは、あっという間に子どもたちをケアする人員がいなくなってしまいます。
結論から言えば、報道にあるような「威圧的な対応」は、ほとんどすべてこの「人員不足」に帰結する問題のように思えます。
こうした施設におけるスタッフ人数は、福祉先進国では子ども1名ないしは2名に対して職員1名です。
ところが我が国の一時保護所では、通常の児童養護施設よりは手厚いものの、子ども4:スタッフ1が精いっぱい。夜勤は前述の通りの有様です。
スタッフの人数さえ十分であれば、職員が声を荒げることも、暴力を振るうことも防げるでしょう。
希望する子どもに付き添って、外出することもできるでしょう。
「報道は事実を切り取って歪めたものだ」
「我々は、子どもたち全員の安全を守らなければならない」
そのように真剣な表情で繰り返す児童相談所スタッフの言葉に嘘偽りはないと思います。しかし、子どもたちの生命と身体の安全を守るための行為が、不幸なことに物理的・精神的な監獄状態を作りだしてしまっているのです。
加えて、あくまで「一時的な」避難場所であるこの施設への滞在が1ヶ月、ときに年単位に及んでしまう原因も、社会的養護分野におけるの予算・人員不足に起因すると言えます。
「保護者(親)がなかなか社会的養護措置に同意しない」
「虐待の明確な根拠が容易に集まらない」
「受け入れる施設・里親が見つからない」
こうした理由で一時保護所での生活を余儀なくされる子どもたちですが、スタッフの数が十分であれば調査や交渉のスピードも上がり、子どもたちの滞在期間を短期化することができるでしょう。
予算が十分にあれば、受け入れ施設を拡張することも、里親への支援を充分に行ってキャパシティを広げることもできるでしょう。
しかし、この分野における我が国の政策的投資は、繰り返しになりますが極めて不十分なものに留まっています。
■
緊急事態の待避所である「一時保護所」は、どれだけ里親・養子縁組が普及しても、ゼロにすることはできません。
極めてホットな状態で集められる子どもたちが生活するこの空間もまた、社会的養護における最重要ポイントの一つです。
実際にここで1年以上の生活を強いられた出身者の方は、
「先の見えない不安の中、危害を加えてくるかもしれない職員や子どもたちに囲まれ、精神的に本当に不安な日々を過ごした」
と述べていました。
多感な時期に長期間、このような精神的状態に置かれた子どもたちがどのように成長していくのか…その先には、多くの困難があるように思います。
長くなりましたが、今回の定例会ではこの一時保護所の実態についても調査・研究を深め、まずは財源のある東京都から改善が始まるよう、訴えていきたいと思います。
それでは、また明日。
おときた駿 プロフィール
東京都議会議員(北区選出)/北区出身 31歳
1983年生まれ。早稲田大学政治経済学部を卒業後、LVMHモエヘネシー・ルイヴィトングループで7年間のビジネス経験を経て、現在東京都議会議員一期目。ネットを中心に積極的な情報発信を行い、地方議員トップブロガーとして活動中。
twitter @otokita
Facebook おときた駿