東芝 不適切会計の不思議

岡本 裕明

東芝の不適切会計額が当初見込みの500億円程度から3倍の1500億円程度の修正に変更されそうだと報道されています。第三者委員会を通じて全部門の会計処理について見直している過程で様々な部門から不適切な処理が見つかったというものです。

これら一連の問題に対して会社側はその責任所在についてどこにあるのか調査していると述べるにとどまっています。また、表向きの報道には監査法人の責任について触れているものがあまりないように思えます。これも不思議な話です。ちなみに監査は最大手の一角である新日本有限責任監査法人であります。

日経の記事の内容からするとまず、不適切処理が見つかった分野は発電、エレベーター、半導体、家電、医療機器など広範な範囲に及んでいます。その内容は損失引当金未計上、評価損未計上、販促費先送りによる利益過大計上となっています。報道では工事進行基準の処理が不適切だったとされています。

報道内容をそのまま信じると佐々木則夫現副会長が2009年に社長に就任した際、リーマンショック、その後の震災の影響もあり、業績が苦しい時期を指揮した際に無理を強いたのではないか、という事になります。仮にもそれが本当であれば経営側による特別背任に問われかねない事件に発展するわけで日経の報道は極めて大きな意味を持つことになります。

佐々木副会長は原子力畑の方で震災の際の東電原発事故の際も活躍されたわけですが、業績の悪化には各部門を叩きまくり、背伸びした数字を作って対応したということでしょうか?会社経営側の直接、ないし間接的な不適切な利益操作、更にはそれに基づく配当は粉飾決算になってしまいます。これは程度によっては上場廃止基準に引っかかりますし、仮にうまく逃れたとしても市場の信任が落ちますから機関投資家などが内規により売却処分せざるを得ない可能性が出てきます。

もう一点、私が今一つすっきりしないのはこれだけ多くの部門でこれだけの不適切会計がまかり通ることが起きうるのか、という疑問であります。通常、監査法人はかなり詳細に決算内容を検討するもので工事進行基準の場合には論理的に正しいと思われる処理を突き詰めるのが監査法人です。

また、もしも進行基準が3年以上に及ぶ場合で1年目で不適切ないし、捕捉できなかった売上、コストの変動要因は2年目で補正、吸収され影響は希薄化されるようになっています。言い方を変えれば不適切処理を墓場まで持ち込まない限り工事進行基準会計は工事完成時にはかなり収斂された数字に収まるものなのです。

進行基準は3年後、5年後といった長期の工事、プロジェクトにおいて請負金額(本体の設計変更も含む)とそれに見合うコストをどう見積もるか、また、その見積もりが第三者的にみて正しかったと言い切れるものでなくてはいけません。

残念ながら将来の予見をするわけですから工事期間が長期に及ぶもの、複雑なもの、設計変更が多岐に行われるものの予見は実際には非常に難しいものです。結果を見てあれはあの時こうすればよかったといくらでも言える事態は生じるわけでそのあたりの「曖昧さ」が残ることはやむを得ません。但し、その決算処理の短所ともいえる部分を意図的に利用したとすればそれは非常に厳しいペナルティとなってしまいます。これが第三者委員会が追求すべき最大のポイントでしょう。

では本当に新日本監査法人はその点を見抜けなかったのか、それが実に不思議なのです。第三者委員会が監査法人とのやり取りを今のところ公開していないようなのでコメントできませんが、不自然さは残ります。

では新日本監査法人はどんな会社かと言えばあのオリンパスを監査した会社といえばなるほど、と思っていただけるでしょう。また、マスコミを含め、いろいろ書かれているようですが、何が正しいかは皆様の判断にお任せしたいと思います。

オリンパス事件の時も非常に大きな騒動になり、株価は5分の1以下に下落し、上場維持できるかが大きなポイントとなりました。あの事件の本質は経営側の一部の人達が墓場に持って行ったはずのパンドラの箱を当時の外国人社長が開けるという本業とは別の次元の話でありました。今回の東芝の事件は本業そのものの関与という直接的な点であること、東芝という社会的に認知度も高く影響度も大きい会社の事件であることを鑑み、関連当局も慎重、且つ、厳正なる判断をすることになると思います。

今後の展開は当初の想定以上に要注目ではないでしょうか?

今日はこのぐらいにしておきましょう。

岡本裕明 ブログ 外から見る日本、見られる日本人 7月7日付より