大学よりまず幼児教育の改革を 『「学力」の経済学 』

中室 牧子
ディスカヴァー・トゥエンティワン
★★★☆☆


社会科学で実験はできないといわれるが、教育は実験のできる分野である。ヘックマンなどの厳密な実証研究で、これまでの通念をくつがえす結果がたくさん出ている。特に重要な発見は、高等教育より幼児教育の効果のほうがはるかに大きく、しかもその大部分が非認知的能力の差だということだ。

これは意欲、自制心、忍耐力のような対人的な適応力で、こうした能力の効果を定量的に示す概念として導入されているのが、教育生産関数である。これは家庭環境や素質をインプット、学力をアウトプットと考え、公教育をどう変えれば学力が最大化されるか、と考えるものだ。本書には、その実験結果がいろいろあげられているが、たとえば

  • 35人学級と40人学級では学力にほとんど差はない
  • 個人差を無視した「平等主義」教育は格差を拡大する
  • 「子ども手当」には効果がない
  • 教育効果が最大なのは就学前の幼児である
  • 教員研修には意味がない
  • テレビゲームで学力が落ちることはない
  • すべての子供にタブレット端末を配っても効果はない
  • 学力テストの結果を市町村で比較しても意味がない

こういう直観に反する結果が出る最大の原因は、子供の学力の最大の原因は家庭や地域の人間関係の中で自然に教わる非認知的な能力にあり、教室で黒板に書いて教えることは、学力のごく一部だからである。

したがって就学前の大事な時期に、子供を保育所のような貧困な環境で育てることには問題があり、そういう機会さえ与えられない待機児童が潜在的には100万人以上いるともいわれる状況は危機的である。安倍政権は大した効果のない「成長戦略」よりも幼児教育を一元化し、その義務化や無償化に力を入れたほうがいい。

本書はこの手の研究の入門書としては気軽に読めるが、実験が羅列されているだけで系統的に説明されておらず、学校教育をどうすればいいかという提言もなしに唐突に終わっている。