こと(琴・箏)は古来からある伝統的な和楽器として知られています。ところが、日頃から「琴」と呼ばれている楽器は「琴」ではないそうです。
今回は、生田流箏曲・地歌三絃・十七絃箏奏者であり、NHK「新春江戸のにぎわい」、日韓共同開催文化交流事業等で祝賀演奏の実績がある伊藤江里菜氏に、こと(琴・箏)の歴史や魅力について伺いました。
■こと(琴・箏)は庶民的な楽器だった
—「琴」と呼ばれている楽器が「琴」ではないとは?
伊藤江里菜氏(以下、伊藤) 皆さんが「こと」と聞いて想像するのは「琴」だと思いますが、実はそれは誤りです。「箏」が正解です。「琴」と「箏」は古くから誤用があり、「箏」が1981年まで常用漢字として登録されていなかったため誤用が進んだといわれています。いまでは、琴柱(胴の上に立てて弦を支え、その位置によって音の高低を調節するもの)を使用して、琴柱を動かし音程を変える楽器が「箏」。琴柱を使用せず指で絃を押さえ、押さえる位置を変えることで音程を変える楽器が「琴」とされています。皆さまが知っている楽器は「箏」ではないでしょうか。
箏は奈良時代に中国から伝来しました。古事記などの歴史書に演奏する場面がしばしば出てきますが、当時は呪術用の楽器として使用されていました。江戸時代には、武家の女性のたしなみとしてもてはやされていた時期もありますが、歌舞伎や浄瑠璃などの伝統芸能の伴奏として発展してきたので、庶民には親しみ易い楽器だったようです。
■箏は思ったよりカジュアルだった
—箏を演奏するにはなにが必要ですか
伊藤 箏も中古品や稽古用のものであればそれほどコストはかかりません。箏の弦は絹糸を束ねてつくります。ですが絹糸を束ねた弦は高価であることに加えて耐久性が弱いので、いまはナイロン性の弦が一般的です。ギターやバイオリンを調律するように、箏も音程を調節するためのチューナーが必要ですが価格は数千円程度からあります。弦を弾くための爪も同じくらいです。
次に弾きやすさという視点で考えてみましょう。トランペット、ホルン、トロンボーンなどの金管楽器は音を出すのが難しい楽器といわれています。マウスピースが小さくなるほど音程をとることが簡単ではありません。ですが、箏は弦を弾くだけで誰でも簡単に音を出すことができます。
また和楽器は着物を着て正装して演奏するイメージが強いかと思いますが、普段の稽古は洋服でカジュアルです。演奏会やコンサートの場合はイベントの趣旨や曲目のイメージに合わせます。上達するにはテクニックが必要になりますがそれほどハードルの高い楽器ではありません。最近では様々な楽器とのコラボレーション演奏会が増えています。バリエーションも豊富なので気軽に接してもらえればと思います。
—ありがとうございました。
なお伊藤氏が紹介されたYAHOOニュースの記事も参照されたい。
「立石の小林薬局で舞踏・箏などのイベント。閉店した商店街店舗がアート会場に/東京」(みんなの経済新聞ネットワーク)
尾藤克之
経営コンサルタント