夏になると高くなるモノへの逆発想

岡本 裕明

夏になると人々が冬眠から覚めたように動き出します。これは雨季の長いバンクーバーだけではなく、日本でもヨーロッパでもアメリカでも同じ現象です。一般的にはビジネスをしている人には書き入れ時ということもあり、ホクホク状態なのですが、動き出す人々にとってはあまりおいしくない事態も生じています。それは料金。

夏になると料金が上がるもの、例えばホテル、飛行機、レンタカーといった需給に応じて価格が毎日のように変動する業種に最近頭を痛めています。確かに昔から繁忙期に価格は上がるという刷込みはありました。JRでも繁忙期料金というのはありますが、思想的には閑散期の値下げというスタンスでした。あるいは国際線の航空料金は週末発はバンクーバーの場合50ドル高くなります。これは一年を通じて変わらなかったはずです。

最近、日本のある知り合いから8月にバンクーバーに旅行に行くのでホテルを取ってくれ、と依頼をされ、ざっと調べるとそれなりのホテルですと一泊4万から5万円程度になっています。そこに税金やら駐車料金やらインターネット使用料(高級ホテルはまだ別料金です)を付け加えていくと目の玉が飛び出てしまい、ご紹介すらできない状態にあります。

それらのホテルは冬になれば1万円そこそこの料金すら提供することもあるのですが、いくらお客がいるとはいえ、一般的な価格変動の良識を越えているとしか思えません。

私の会社のレンタカー部門。実はこの業界の規律である需給による価格変動制を一切取らず、完全固定価格制度と保険など一切の費用が含まれているワンプライスポリシーを貫いています。理由は利用者の半分以上は近所に住んでいるレギュラーで顧客にとっては夏も冬も関係ないからです。最近は口コミなどでも評判が伝わっているせいかほとんど車が出ずっぱり状態ですが、私は価格は上げません。それで十分にビジネスになるからです。

国際線の航空料金。これは実に厄介であります。私の様にシーズンに関係なく業務で行き来している場合、冬になるとマイルのポイントで予約が簡単に取れる一方で購入しても結構安い金額がオファーされているため、悩ましい状態になります。ところが夏になるとマイルどころか、価格が5割も跳ね上がり、思った日に飛べません。その上、飛行機が混みあい、エコノミーなら隣に人が座り、せまっ苦しい我慢を強いられます。(私は基本的に真ん中の4列シートで隣席が空いているところをチェックインの時取ります。)

いつも思うのは飛行機にはなぜ価格固定の回数券がないのだろう、と思います。ビジネスマンや企業向けなら同じ行き先の回数券を売り出せば航空会社としては顧客の囲い込みが出来るはずだし、安定したお客様となるはずです。しかし、そのような努力やアイディアを出す航空会社は何処にもありませんから私は日本には3社飛んでいる航空会社で特に御贔屓を持たずにあくまでもその時の価格と利便性だけで選ばせて頂いています。

実は飛行機、ホテル、レンタカーにはある共通点があります。八百屋や魚屋は売れ残りは身内で処分する方法があります。飲食店は賄いにするなどの方法もあります。ところがそれらのビジネスは明日には何も残らないのです。言い換えれば空気のようなもので時の経過と共に消えてなくなるビジネスなのです。在庫一掃処分セールは時間軸の前にしかできないのです。

では私のレンタカー部門はなぜそれでもやっていけるのかといえばロイヤルなお客様を囲い込んでいるからかもしれません。先日、アメリカからの旅行客が執拗な値引きやいちゃもんをつけていきましたが、たった一言、「あなたの借りている車は大手レンタカー会社より今日のレートと比べると25%安いですよ」でご満足いただける結果となりました。

レギュラーの方とはコミュニケーションを大切にします。大手はクライアントカードだけがコミュニケーション手段ですが、我々はリアルのコミュニケーションをします。この違いは大きいと思います。もちろん、規模が大きくなればどうなのか、ということはあります。それについては私のクライアントの某大手ホテルではクライアントの名前を呼ぶ、覚えるの訓練を徹底していました。

レストランでも最後、精算した際にクレジットカードから名前を呼んでもらえることがしばしばあります。あれは気持ちがよくなるのです。最近はネットを通じた価格競争が全てのような時代にみえますが、お客様の価値観は必ずしも安ければよいというわけでもありません。そういう方もいらっしゃるし、そうでない方もいらっしゃる、しかし、供給側が一様に価格競争にのめりこみ過ぎてやしないでしょうか?

セールスとマーケティングはまだまだいくらでも改善の余地があると思います。

今日はこのぐらいにしておきましょう。

岡本裕明 ブログ 外から見る日本、見られる日本人 7月19日付より