オバマ大統領の“上からの目線”? --- 長谷川 良

ひょっとしたら、オバマ米大統領はケニアのケニヤッタ大統領を含むアフリカの指導者に向けてアドバイスをする気楽な気持ちから言ったのかもしれない。だから、その善意から出た助言が相手から反発されるとは考えていなかったはずだ。父親の出身国、ケニアを訪問(7月24日~26日)したオバマ大統領は写真で見る限り、上機嫌だった。

オバマ大統領は25日、ケニアの首都ナイロビでケニヤッタ大統領と会談後、記者会見に臨んだが、そこで隣国ソマリアのイスラム過激派アッシャバーブへの対策問題のほか、同性愛問題が話題となった。
同性愛はケニアを含むアフリカ諸国(56カ国)では法的に禁止されている国が多い(昨年末現在36カ国)。一方、同性愛問題ではリベラルなオバマ大統領は少数派の同性愛者への人権擁護を訴え、同性愛者を犯罪人のように扱うアフリカの政治家に再考を促したわけだ。

外電によると、オバマ大統領は米国内の人種差別問題を例に挙げ、「少数派の人々が他と違うという一点で多くの弾圧を受けている」と指摘し、同性愛者の人権尊重を訴えた。それに対し、ホスト国のケニヤッタ大統領は、「同性愛問題は重要ではない。われわれは米国と共有できないものが存在する」と述べ、同性婚を合憲とした米国の価値観に対し、距離を置く姿勢を示した。

実際、ケニアを含むアフリカ諸国と米国では同性愛問題では全く対応が異なる。アフリカでは一夫多妻は容認される傾向がある一方、同性愛者に対しては厳しい目が注がれる。換言すれば、同性愛者は人間として認められない、といった雰囲気がある。その背景には、イスラム教やアフリカで積極的な宣教活動をするキリスト教福音派教会の影響があると指摘する声がある。
米国では先月26日、米連邦最高裁判所が同性婚禁止を違憲とし、同性婚を合憲とする判断を下したばかりだ。その結果、同性婚は全米50州すべてで認められることになった。

ちなみに、同性愛問題では欧州も米国のトレンドを追っている。国民の85%がカトリック教徒のアイルランドで5月22日、同性婚の合法化を明記する憲法修正案の是非を問う国民投票が実施され、国民の60%以上が同性婚の合法化を支持したばかりだ。ドイツでも現在、同性婚の合法化の議論が進められている。
欧州で同性婚問題ではっきりと拒否姿勢を打ち出している国はロシアと旧東欧諸国の一部だけだ。ロシアでは同性愛を広げる活動も処罰される。モスクワの同性愛政策に対して欧州諸国から批判の声が上がっているほどだ。

話をオバマ大統領のケニアでの発言に戻す。アフリカ諸国の発展のためには汚職対策が急務だと訴えたオバマ大統領の発言に対してはアフリカの政治家たちは理解を示したものの、同性愛者への人権擁護発言には、「米国とは価値を共有していない」という表現で完全に無視したわけだ。

訪問先で米大統領の発言がホスト国の政治家からこれほどはっきりと反発を食らったことは過去、なかったことだ。オバマ大統領は世界の大国指導者として「米国に倣え」と訴えたわけだが、父親の出身国のケニアの大統領から「米国に倣うことは出来ない」と一蹴されてしまったのだ。

訪問先の習慣、文化、社会情勢を理解することは外遊する政治家にとっては大切だ。オバマ大統領は父親の出身国ということで気が緩んでいたのかもしれない。米国大統領という驕りもあったのかもしれない。今風な言い方をすれば、オバマ大統領は無意識のうちに“上からの目線”で語ったのかもしれない。
ケニヤッタ大統領から強い反発を受けたオバマ大統領は、アフリカの文化・宗教を学び、その違いを理解することが大切だと感じたかもしれない。それは自身のルーツを知ることにもなるからだ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2015年7月29日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。