いたちごっこの「相続税対策」を無意味にする方法 --- 内藤 忍

日本経済新聞の特集で相続税の無い国というのが地図で示されていました(写真)。実は、ニュージーランドなどもその1つですが、なぜかこの中には入っていません。それはともかく、このような記事が一面を飾るということは相続税に関して、日本人の関心が高まっていることを示しています。

日本では、今年から相続税の課税強化(基礎控除の5000万円から3000万円への引き下げなど)が実施され、相続税がお金持ちだけの「他人事」ではなく、自分にも降りかかってくる「自分事」に変わった人が増えました。その認識さえない呑気な人もいますが、着々と合法的な対策を打とうとしている人もいます。

即効性のある相続税対策は不動産の購入ですが、タワーマンションを使った節税方法などは今後税当局からのルールの見直しが入る可能性もあります。そうなると、また別の節税方法を考えるといった具合で、いたちごっこが続くことになってしまいます。

このような、相続税の課税方法の小手先の変更をするよりも、劇的な効果があると思うのは、贈与税の課税をゼロにすることです。

相続税の軽減を考え、策を練るまでもなく、贈与すれば税金を取られず次の世代に資産を送ることができるとなれば、世代間の資産の移動が活性化します。相続税の税収は減るかもしれませんが、贈与された若い世代が消費に使えば、景気回復につながり、消費税の税収ももたらします。

相続税対策をあれこれ練って、税務リスクを取るよりも、さっさと贈与した方がすっきりすると考える人が増えれば、世代間の資産の偏在が一気に解消する原動力になるかもしれません。

極端な例ですが、贈与税はゼロ、相続税はすべての資産で100%となれば、シニアの人にとっては資産を手元に持つことがリスクとなります。そこまではやりすぎとしても、贈与税と相続税のコントロールによって、資産移動を促すことができるのは事実です。

相続税対策のような、税効果を優先した経済活動は、資源配分の非効率を引き起こし、社会全体で見れば望ましいものでは無いと思います。教育資金の贈与など限定的な贈与税減税は始まっていますが、その効果は限定的です。1つの国の中の問題というだけではなく、国家間の富の奪い合いにも影響することを意識した戦略的な税体系が求められていると思います。

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編集部より:このブログは「内藤忍の公式ブログ」2015年7月28日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は内藤忍の公式ブログをご覧ください。