不動産は、株式市場で買え

かつて、米国のある有名な不動産王は、不動産はウォールストリートで買うのが安い、と豪語していたように記憶する。


これは、ある企業の株式の時価総額が、その企業の保有する不動産の価値を下回るような状況が、あり得ることをいっているのである。そういう場合には、理屈上は、その企業を買収してしまえば、その企業が所有する不動産を安く手に入れることができる。だから、不動産は、株式市場で買うほうが安い。

同じように、不動産を担保にしている債権の価格が、当該担保不動産の価値を下回ることもあり得る。そういう場合は、その債権を取得して抵当権を行使すれば、担保不動産を安く手に入れることができる。だから、不動産は、債権の形態で買うほうが安い。もっとも、抵当権を行使できるように、期限の利益を喪失した債権(破綻債権)でなくてはならないが。

一般化していえば、不動産の価値を裏づけにしている何らかの資産(債権、債券、株式、その他)の価格は、その不動産の価値に一致しているとは限らず、しばしば、不動産価値を下回り得るのである。なぜか。

破綻債権の場合は、債権者側の回収に要する費用を考える必要がある。回収は、貸金業の本業だから、銀行等の債権者にとって、回収を自分でやろうと思えばできる。しかし、色々な意味で、費用が大きい。

ここで費用というのは、様々な社会的費用を含めていうのである。不良債権処理を急ぐ必要性、後ろ向きの仕事に経営資源を割くことの非効率、回収にかかわる時間と回収金額の不確実性、そうした費用を総合的に勘案するならば、破綻債権の状態で第三者に譲渡して、回収を任せる経済的合理性がでてくる。つまり、破綻債権の背後の不動産を、その実質価値よりも低い価格で売却する合理性である。

逆にいえば、ここに、投資家の立場からは、割安に不動産を取得できる機会が生まれる。不動産は、破綻債権の状態で取得するのが安いという理屈である。

株式の時価総額が保有不動産の価値を下回る場合もそうである。買収して不動産価値を実現するには、事業の整理をはじめ、相当程度の不確実性と時間、社会的費用がかかる。それらを織り込むから株価が安いのである。

ところが、そのような割安に不動産を取得する機会は、誰にとっても、開かれているわけではない。不確実性を管理する技術、専門性をもった人的資源、資金調達力などについて、優位をもつ人だけが、割安に不動産を取得できるのである。それが、不動産投資の技術力である。

森本紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
HC公式ウェブサイト:fromHC
twitter:nmorimoto_HC
facebook:森本紀行