話題が尽きない新国立競技場 続編

文科省の局長が辞任したというニュースが流れ、週刊誌やワイドショーのネタとしては最高の盛り上がりを見せています。

もともと舛添都知事が吹っかけた話で、責任者である局長が辞めるか、大臣が辞めるか、と迫ったことに対して下村文科大臣が引っかかったようなものでしょう。どう見ても舛添都知事と下村文科大臣の個人的そりが合わない中、第二ラウンドでリング上に上がった下村大臣がセコンドが悪いと言ったようなものですから当然、野党をはじめ、世論はいろいろ騒ぐことにになるわけです。日本の慣例から起こりうる可能性を推測すると今後、下村大臣が標的になり、最後、辞任まで追い込まれるというのがストーリーです。さて、リングの上で最後まで倒れずに戦えるか、これは夏のエンタテイメントとして聞き流すことにします。

それよりも気になるのがザハ ハディド事務所が「コスト高は東京の資材や人件費高騰によるもので、デザインが原因ではない」との声明を出したことであります。これには異論百出となりそうです。

まず、アーチが230億円でできるとザハ事務所が試算しているその根拠と950億円かかるというその違いがどこにあるのか、ザハ事務所として具体的に説明してもらう必要があります。ザハ事務所は建築費が高騰しているのが原因としています。資材費よりも人件費、それよりも人材確保の問題であって実際の工事費についてみれば安倍政権になってからざっくり2割程度の上昇です。ですが、それでも2割です。230億円の2割増しは276億円です。

これは私の想像ですが、ザハ事務所の見積もりも政府の工事費予算も極端な数字が入っているように思えます。

まず、ザハ事務所が日本の工事見積もりにおける特徴である巨額の仮設工事費を計算に入れていたかどうか、であります。あのような特殊なアーチを作るには作業場の確保、仮設の橋梁用足場に巨額のコストがかかるのですが、それが230億円には入っていないような気がします。つまりザハ事務所は本体工事の主張であり、付随工事、仮設工事、準備工事のコストを一般的比率で足しこんだだけで特殊性の詰めが甘かった可能性があります。

特に日本は震災対応がありますので仮設のクレーンにしろ足場にしろとにかく大がかりになります。通常の建物のクレーンも諸外国に比べてかなりしっかりしているものを使っています。カナダなら50-60階建ての建物を建てるのでも細いトンボクレーン一本でやりますからそのコストの違いは明白です。

では建築会社に実際に発注したら本当にこれだけかかるのか、であります。発注形態が競争入札ではなく、随意ですので建設会社は特に工法に工夫する努力をしなくてもよいわけで言われた通りの安全で確かなコストの高い方法をやればよいわけです。難しい技術を要求されるだけに本来であればゼネコンの腕を見せてもらいたいところなのですが、そこまで掘り下げていないところにも問題がありそうです。

つまり、この競技場は元からデザインありきなんです。建設会社と設計事務所がタッグを組んだデザインビルトのコンペ方式ではなかったところにスタートから間違えたということでしょう。

そう考えれば局長が辞めるのは致し方ないと思いますが、この混乱を招いたのは下村文部大臣のハンドル捌きの悪さも大いにあったわけでそのあたりを知らんぷりするのはどうかと思います。安倍首相としてはこれ以上、本件で波風が立つとご自分の支持率を含めた足場がぐらつくことになりますのでなるべくそっとして、遠藤大臣のあのにこやかでうまく立ち回るスタイルにお任せするしかないのだろうと思います。

この問題は日本にとっては恥ずかしい話ですからいい加減にパシッと軌道に乗せて進めてもらいたいものです。

今日はこのぐらいにしておきましょう。

岡本裕明 ブログ 外から見る日本、見られる日本人 7月29日付より