当方はこのコラム欄で「君は“ヴィンセント”を聴いたか」(2014年12月20日)というタイトルの記事を書いた。米国のシンガーソングライター、ドン・マクリーン(Don Mclean)が天才画家ヴィンセント・ファン・ゴッホ(Vincent Willem van Gogh)の生涯を流れるようなメロデイーで表現した「ヴィンセント」という曲について書いた。誰からも理解されなかったゴッホの悲しさが聴く者の心に伝わってくる。その曲の主人公ヴィンセントは1890年7月29日、37歳の若さで亡くなった。今日(29日)で死後125年だ。ポスト印象派の代表的画家だった。
ここでゴッホの人生やその作品について書くつもりもないし、当方にはその能力はない。ただ、ゴッホの絵が好きなだけだ。当方の寝室の壁にはゴッホの「星月夜」(1889年作)の大ポスターが貼ってある。死の1年前、フランスの精神病院の療養期間に描いた作品だ。原画は現在、ニューヨーク近代美術館に展示されているが、当方はベットに横になりながら、ポスターを観賞するという考えられない贅沢を楽しんでいる。
「星月夜」(The Starry night)を観ていると、さまざまなイメージが浮いては消えていく。そのイメージは見る度に変る。ある時は「星の王子さま」の主人公のような少年が出てくる。ある時は宇宙のブラックホールが浮かんでくる、といった具合だ。ひょっとしたら、ゴッホは、死後、別の世界に移り動く人々のイメージを描いたのではないか、と思ったりした。
バチカン放送独語電子版は26日、「ゴッホは近代画家のパイオニアであり、その後の画家に大きな影響を与えた」と報じていた。彼の色彩には日本の浮世絵の影響があると指摘されてもいる。
彼の絵は生前、ほとんど一枚も売れなかったが、今日、彼の作品はオークションで最も高価で取引されているという。ゴッホの約900の絵画、約1000のスケッチは最後の10年間で集中的に書かれた作品だ。特に、フランス居住時代、精神病院での療養時代の作品だ。
ゴッホは生前、その作品だけではなく、彼の内面世界も誰からも理解されなかったという。画家の孤独が作品の中にも感じられることがある。牧師の家に生まれたゴッホは若い頃、聖職者になるために勉強しているが挫折した。ゴッホは常に神を探し求め、その孤独を慰めようと葛藤していたのかもしれない。その戦いで倒れる1年前に「星月夜」を描いた。「星月夜」を残してくれたヴィンセントに感謝したい気持ちで一杯だ。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2015年7月29日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。