少々、遅くなった感もあるが、やはり所感をまとめておきたい。韓国の朴槿恵大統領(63)の実妹、朴槿令氏(61)が日本から帰国直後、ソウルの金浦空港で韓国メディア関係者との取材の中で語った内容についてだ。産経新聞が詳細にその内容を報道していたが、同氏の返答が明確でズバリ正鵠を射ているので、「本当に韓国の大統領の実妹の考えか」と驚かされた。
韓国問題のウォッチャーからは、「朴槿令氏は日韓関係で肯定的な発言を繰り返してきた人物で、その考えは既に知られている」といわれるかもしれないが、その発言内容はやはり新鮮であり、驚きだ。
産経新聞ソウル発の記事によれば、靖国神社参拝問題では、「子孫が先祖を訪ねるもので、韓国が日本の子孫の参拝を批判することは内政干渉だ」と批判。日本の謝罪問題については、「天皇が頭を下げているのに、なぜ日本の首相が替わるたびに謝れと言うのか」と韓国の対応を批判。「日本は韓国の経済発展の基になることをたくさんしてくれたのに、被害意識だけ抱いていては国益にならない」と、国民に注意を促している。
朴槿令氏の発言の中で最も衝撃的なのは慰安婦問題への返答だ。「元慰安婦をはじめ苦痛を受けた方々に対しては、韓国国民が国内で面倒を見なければならない」と述べているのだ。「韓国国民が慰安婦の面倒を見るべきだ」という発言は主権国家・韓国の威信を表現したもので、責任を自ら背負っていくという強い意思が現れている。その発言が「告げ口外交」を推進してきた朴大統領の実妹の口から出たのだ。
大統領と実妹の考えはどうしてこれほど180度異なるのか、当方は理解できないし、姉妹関係、朴家の事情などについて何も言える立場ではない。ただ、朴槿令氏の発言は、韓国側から常に批判されてきた日本国民の心をも打つものがある。
当方は、「韓国国民が慰安婦の面倒を見るべきだ」という発言に感動を超え、恐ろしさすら感じるのだ。韓国は慰安婦問題ではこれまで日本側に謝罪と賠償を要求してきたが、同氏は韓国国民に、「我々が面倒を見るべきだ」と言い切ったのだ。韓国民族が日本に対して常に主張してきた「道徳の優位性」とは何かをこの発言は教えているように感じるからだ。
同氏の発言内容からは、「国家は国民の運命に対し責任を背負っていくべきだ」という姿勢を感じる。申し訳ないが、韓国側にはこれまでこの姿勢が乏しかった。全てを他者、他国のせいにし、責任回避の傾向は社会全般に席巻してきている。そのような中で、朴槿令氏の発言は全く異次元な感じすら覚えるのだ。
ウィーン生まれの社会学者ピーター・F・ドラッカーは、「成長に必要なものは責任だ。あらゆるものはそこから始まる」と述べている。責任を担わない者、国は成長できないのだ。朴槿令氏の発言を読んで、この言葉を思い出した。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2015年8月4日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。