6日は広島市に米国の原爆が落とされた日であり、9日は長崎市の被爆の日だ。日本は戦後、世界唯一の被爆国として核兵器の全廃を国連や様々な場所で訴えてきた。終戦から70年が経過したが、核兵器は依然、存在し、その大量破壊兵器の製造を目論む国は皆無ではないのだ。
正式には米ロ英仏中が核兵器保有国であり、インド、パキスタンが核兵器を保有し、イスラエルと北朝鮮の2カ国も同様、核を保有している。「原爆は絶対使用できない兵器だ。保有する意味が失われてきた」(コリン・パウエル元米国務長官)といわれるが、核保有国数だけをみても、増えてきているのだ。
広島、長崎両市に原爆が投下されてから今日までに2056回の核実験が行われた。最近では、北朝鮮が2006年10月9日、09年5月25日、13年2月12日、計3回、核実験を実施した。国別統計にみると、米国が1032回、旧ソ連715回、フランス210回、英国45回、中国45回、インド4回、パキスタン2回、そして北朝鮮の3回だ(南アフリカとイスラエル両国の核実験が報告されているが、未確認)。なお、北朝鮮は今年10月、労働党創建70周年を記念し、4回目の核実験を実施するのではないかと予想されている。
核軍縮交渉は核拡散防止条約(NPT)と包括的核実験禁止条約(CTBT)を中心に推進されてきたが, オバマ米大統領が2009年4月、プラハの演説で提案した「核なき世界」の実現までにはまだ程遠いのが現実だろう。
今年4月27日から5月22日までニューヨーク国連で開催されたNPT運用検討会議は中東非大量破壊兵器地帯の設置構想を巡って米・エジプト間の溝が埋まらず,最終文書を採択できず、終了したばかりだ。
一方、核保有国の核兵器近代化が密かに進められている。仏は核搭載可の弾道ミサイル実験を行い、米国は20年以上、核実験を実施していないが、ネバダ州の核実験場で、臨界前核核実験を繰り返してきた。中国は核戦略を拡大し、核兵器を運搬する長距離弾道ミサイルの増強に力を入れてきた。同国は2012年7月、最新型の大陸間弾道ミサイル(ICBM)「東風41」の発射実験を行った、といった具合だ。
CTBTは1996年9月、署名を開始したが、署名国は8月現在、183カ国、そのうち164カ国が批准完了。条約発効に批准が不可欠な核開発能力保有国44カ国中8カ国がまだ批准を終えていない(米国、中国、北朝鮮、イスラエル、インド、パキスタン、イラン、エジプト)。CTBT機関によると、337施設から構成される国際監視システム(IMS)は現在、約90%が完了している。CTBTは9月、条約発効促進会議を開催し、早期発効を訴える予定だ。
核問題でグットニュースはウィーンの核協議で合意されたイランの核問題だけだ。国連安保常任理事国(米英仏ロ中)にドイツを加えた6カ国とイラン間で続けられてきたイラン核協議は先月14日、最終文書の「包括的共同行動計画」で合意し、2002年以来13年間に及ぶ核協議はイランの核計画の全容解明に向けて大きく前進した。もちろん、イランは合意内容をまだ履行していないので、今後どのようになるかは不確かだ。
イランの核問題では、イスラエルとサウジアラビアの両国がその行方を注視してきた。イスラエルにとって、イランが核兵器を保有するということは国家の脅威であり、イスラム教スンニ派の盟主サウジにとって、シーア派のイランの核兵器は悪夢だ。テヘランが核兵器を保有すれば、サウジは即、核兵器製造に乗り出すだろう。ちなみに、インドの核兵器に対抗するために核兵器製造に乗り出したパキスタンはサウジから資金を受けていたといわれる。
ウクライナのクリミア半島を併合したロシアは目下、欧米社会から制裁を受けているが、プーチン大統領は6月、核戦力の強化として新型大陸間弾道ミサイル兵器の実践配置を発表し、国際社会に衝撃を与えたばかりだ。「冷戦の再現」と受け取り、不安を感じ出した国もある。
プーチン大統領は今年3月、クリミア半島併合の際、核兵器を導入する準備があったと明らかにしたが、ウクライナが核兵器を保持していたら、ロシアはクリミア半島を力で併合するという冒険には踏み切れなかっただろう、という議論が欧州で今、囁かれている。核兵器が戦争を防止するという核兵器の効用論は依然、消えていないのだ。
核兵器を保有する国でその大量破壊兵器を破棄した国は過去、南アフリカ一国だけだ。核大国の米国とロシアがある日突然、その核兵器を放棄するとは考えられない。米大統領が「核なき世界」を叫んだとしても、それはやはり“見果てぬ夢”に終わるだろう。無数の外交文書を採択したとしても、ここ当分は核兵器は消滅しない(「核は外交文書では消滅しない」2015年7月10日参考)。
全ては使い手によってプラスにもマイナスにもなる。デュアルユース・アイテムだ。核エネルギーもそうだ。大量破壊兵器として利用すれば、多くの犠牲と悲劇を生み出すが、平和的に利用すれば、人類に大きな貢献をもたらす。わたしたちは後者を促進、発展させ、人類の英知を証明したいものだ。それとも、前者の道を行き、取り返しのつかない結果を目撃しなければならないのだろうか。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2015年8月6日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。