リスクは損失であり、損失は、投資している資産の価値の毀損である。一方、ボラティリティは、価値ではなくて、価格の単なるランダムな市場変動である。リスクは、ランダムではなく、分散によって小さくできる性質のものではない。ランダムな変動ならば、分散によって、小さくできる。そこに、分散投資、いいかえれば、アセットアロケーションの意義がある。
ボラティリティは、価値が変動していないときでも、価格は変動し得ることを意味する。単なる価格変動ならば、ある資産の価格が下落し、その他の条件にして一定であれば、その資産の時価占率は低下するので、その低下分を埋めるように再調整する、つまり買い増せばよい。当然に、その分、他の資産を売ることになる。同様に、ある資産の価格が上昇したら、それを減らして、他の資産を増やせばいい。
いわゆるリバランシング(資産配分の再調整)の意味は、ここにある。リバランシングは、結果的に、割安なものを買い、割高なものを売ることになるので、そこに追加的な付加価値を生む。
ところが、このリバランシングの問題、それほど簡単ではない。
第一に、価格下落の原因が、単なるボラティリティではなくて、価値の毀損を伴うリスクだったら、どうなるのか。まさか、価値の毀損したものを買い増すのは、不適切であろう。
第二に、単なる価格変動とはいっても、一時的な価格の下落や上昇が、一時的でなくて、長期間、継続したらどうなるかということである。リバランシグの効果は、長期的にしか実現せず、短期的には、かえって、困難な状況を生むかもしれないのである。
第三に、全ての資産価格の変動が、同じ向きになったらどうなるのか。そもそも、分散効果がない状況である。これでは、リバランシグは、意味をなさない。
そこで、「現金は王様」ということの一面の真実が見えてくる。
現金を増やせば、確実に、全体のボラティリティは下がる。また、現金から割安なものへリバランシング、割高なものから現金へリバランシング、というのは、全体が割安、全体が割高になった場合にも、依然として有効なリバランシングであるわけである。
確かに、現金は、投資価値が一番小さいので、それを保有することは、機会利益の喪失(機会費用の発生)になる。ところが、逆に、現金を保有するところから生まれる別の投資の機会が大きいのであれば、必ずしも、費用ではないかもしれない。
さて、ボラティリティの管理手法としてのアセットアロケーション、および、その延長にあるリバランシグをめぐる問題を整理すれば、以下の三つになるのだと思われる。
第一に、伝統的なアセットアロケーションは、あくまでもボラティリティ管理の手法であって、リスク(投資価値の毀損として本当の損失)を回避する手法ではないことである。リスクは、投資対象の選択の問題、即ち、アロケーションではなくて、セレクションの問題であって、投資対象の分散の問題ではないのである。
第二に、リバランシグが有効である条件は、資産間の連動性が著しく高くなく、価格変動幅が著しく大きくなく、価格の逆方向への調整に要する時間が著しく長くはない、そういう場合だということである。これらの条件が充足しないときは、リバランシングはしないほうが良い。
第三に、リバランシングをしないほうが良いような状況では、現金保有の意味を積極的に考える余地があるということである。
森本紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
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