金正恩氏は韓国側の拡声機放送へ異常な反応を示しました。思えば昨年暮れにソニーピクチャーズのコメディ「ザ インタビュー」が公開されるにあたり、金氏はやはり、過剰反応を示しました。もちろん、個人を嘲笑するような話はプライドが許さないのは当然であり、若い金氏にとっては耐え難い屈辱なのだろうと思います。
拡声機放送は2004年6月に南北の合意のもと、中断していましたが非武装地帯の地雷で韓国側で二人の負傷者が出たことで韓国側が一方的に報復の如く、再開したものであります。この放送設備は2004年当時と比べ移動型になっているうえ、デジタル方式等性能が向上しており、音は国境付近から20キロ前後は届くとされ、一部北朝鮮の住民にも影響を与えることになります。
金氏が同国の統治に於いて外からの情報をコントロールすることでその地位を保っている以上、外からの情報が入りやすくなることはそれこそ、ソニーの映画のように金氏を誹謗中傷するようなメッセージを送ることも可能となり、影響力の行使の点に於いて絶対に許せない事態であったのでしょう。
但し、数日前のブログで書きましたようにそれが起因で南北間の戦争勃発となるならばそれはあまりにも短絡的であり、世間一般には到底理解できない事態となるところでした。
板門店では両国の代表者が延40時間以上を費やして交渉し、ようやく6項目の合意となったようで最悪の状態からは脱した感があります。この代表者交渉は朴大統領と金正恩最高指導者同士の「間接的な直接交渉」でありましたが、地雷爆発については北朝鮮が「遺憾」、拡声機放送については韓国が「中断」という妥協で折り合いがつきました。
では、北朝鮮は最悪の場合、本気で戦争を仕掛けるつもりだったのでしょうか?私は金氏は首根っこを掴まれて出来ない状態にあったとみています。それは中国側の動きであります。中国は北朝鮮の国境近くに22,23日頃、対戦車自走砲などを終結させていたとされ、北朝鮮は完全包囲状態となっていた可能性があります。
金正恩氏は中国の軍事パレードに欠席するとされています。習近平国家主席との折角の初会合のチャンスを逃すのみならず、中国との和解すら出来ない状態となり、習近平氏の怒りを買っているのではないかと感じます。朴大統領は軍事パレードには出席の意向(軍のデモンストレーション参加はまだ未定)とされており、韓半島の現時点での対中国関係をみれば韓国の方が有利な展開となっています。
では、ここまで追いつめられた金正恩氏はもういい加減に降参しないのか、といえばもっと追い詰められても無理な気がします。それは国際社会が金正恩氏に極めて厳しい判断を下すのが目に見えているから、とも言えその結果、独裁者がその席を降りることとは死を意味するからではないでしょうか?北アフリカの春やイラクで何が起きたか、金氏は当然分かっているはずです。
織田信長の本能寺の変には様々なストーリーがありますが、首が見つからないのは信長にとって最大のプライドではないでしょうか?つまり、独裁者は祭り上げられることを最も恐れているものであり、高い頂点に立てばたつほどその恐怖心と紙一重なのであります。
今ごろ、金正恩氏は独自の解釈をもとに美酒に浸っているはずです。
しかし、北朝鮮を取り巻く環境は金第三世代になって大きく変わろうとしています。国際世論は金氏を全く理解できなくなり、大事な中国という隣人とも疎遠になり、コミュニケーションよりロケットを好む奇人として評されています。
そのボイスに耳を傾けることもない彼の独裁政策はある意味、中国の現在の政策とも似ているともいえますが、若い彼が一人で振り回すほどそう簡単に国家は支配できないということにそろそろ気がついてもらいたいものであります。
今日はこのぐらいにしておきましょう。
岡本裕明 ブログ 外から見る日本、見られる日本人 8月25日付より