市場心理のぐらつき

人の心理はいつも現状より先を反映しやすいものかもしれません。調子が良い時(ブル)はこのままいけば俺は億万長者だ、事業は大成功だ、欲しかった家も車も買えるというかなり先のロードマップを想像します。宝くじを買うときも当たった時のことを想像して買う人が多いでしょう。同じことです。

一方、弱気(ベア)になると更にその先の悪いことを考えてしまいます。このままでは赤字だ、倒産だ、クビになる…であります。これを株式市場に当てはめると損した、信用の決済ができない、追証だ、強制売買だという形になります。しかも追証は2営業日しか時間を与えてもらえません。その間に現金を含む担保差し入れをしないと強制終了になります。

信用を膨らませている人にはこれが一番怖いのであります。今回の株式暴落で恐ろしい思いをしたのは一般投資家でしょう。日経平均の日足チャートの目盛りが10円単位ではなく100円単位で乱高下するそのシーンは長年株式市場とお付き合いさせている私もあまり記憶がありません。証券会社には追証の問い合わせが殺到したとのことです。中国からは損失の金額が大きくなるほど飛び降りる建物の高さが上がるといった嘘か本当か分からない話も聞こえてきます。

その中国、ついには「僕だけが悪いんじゃないもん、アメリカが利上げするといったからじゃん」と完全開き直り態度を取りました。挙句の果てに「アメリカも欧州も日本も努力足りないんじゃないの」と責任転嫁状態であります。正に中国の素顔そのものであります。逆に万策尽きたともいえます。

利下げしても株価は下がる、こんなことは今までは普通ではありませんでした。しかし、心理とは正に地の底まで悪くなると思ってしまうところに問題があります。中国の一般投資家は株価がマイナスになるとでも思っているのでしょうか?株は所詮、有限責任です。損も有限です。レバレッジを含めた投資総額以上の損はありません。勿論、命は取りません。

私が見る中国の失速には二つのキーがあると思います。一つは13億の人口を成長の糧に転換できていないこと、もう一つは習近平国家主席の厳しい腐敗取り締まりであります。

まず人口ですが都市居住者と農村居住者はざっくり半々です。ところが戸籍で見ると依然農民工が3分の2を占めます。つまり中国は経済のエンジンとしての人口についてその潜在能力を十分に生かし切れていません。

二点目の腐敗取り締まりですが、中国には共産党委員が約8700万人います。その人たちが何らかの袖の下で蓄財、散財していたものを止めたわけです。もちろん、正しい政策ではあるのですが、経済には当然厳しい影響が出るのは分かり切っています。まさに需給ギャップの問題だと思いますが、外資もこぞって中国という夢を追ったのはかつてのカリフォルニアのゴールドラッシュと同じようなものなのかもしれません。

そこまで考えれば中国がどこまで悪いのか、というより中国は調整に時間を要し当面、回復しないから諦めて他の成長エンジンを探すというポジティブ思考に転換するしかないと思います。中国とは縁もゆかりも全くない企業の株までとことん売りたたかれる理由は基本的にはなく、単にお付き合いをさせられている、という割り切り感を投資家は持つべきでしょう。

驚いたのはアメリカでQE4の声が出てきたことです。甘い汁を一度吸うと忘れられない、とはこのことでしょう。私はもう20年近くずっと言い続けていることがあります。「金利は下げたら上げにくい」と。それは緩い下り坂を走り続けているとちょっとした上り坂も息絶え絶えになるのと同じです。ですが、これ以上下げてはいけません。下げると体力低下を意味するともいえるのです。高い金利を払ってでも事業を推進出来る成長性がないということです。経済の老化の一種であるともいえましょう。

今回の乱高下は一旦は収まってくるとは思います。いや、そうでないと困ります。先進国でも対策を打ち出す可能性があります。少なくとも中国への過剰期待に対して大いなる反省とすべきでしょうか。

今日はこのぐらいにしておきましょう。

岡本裕明 ブログ 外から見る日本、見られる日本人 8月27日付より