私は今年2月の『「平凡なことを完璧にやり続ける」中で人間は成長して行く』というブログで、稲盛和夫さんの言葉を御紹介し『たとえそれが「平凡なこと」であったとしても、決して物事を軽く見ずに常に一生懸命完璧を求める。如何なる仕事であっても誠心誠意努力し、きちっとそれに打ち込んで行く。こうした姿勢を持たずして、人間として成長して行かないのは間違いないことでしょう』と書きました。
また稲盛さんは、「真の経営者」は「損得」でなく「善悪」という判断基準を有するべきで「善か悪かを判断するにはまず立派な人間性を持っていなければ」ならないということ、それから「常に正しい判断をするために必要な人間性」を磨く上では「息つく暇もないぐらいに一生懸命、自分に与えられた仕事に打ち込むこと」が一番の鍛錬だということ、をプレジデントの記事で述べておられます。
此の稲盛さんの御意見に、私は全面的に賛成です。一心不乱に仕事に打ち込んで雑念を追っ払い、「天」と対峙することに尽きるのだと思います。努力もせずに愚痴を言い、やる前から「出来ません」と諦めてしまうような人が多くいます。
『論語』の「述而第七の一八」に、「憤りを発して食を忘れ、楽しみて以て憂いを忘れ、老いの将(まさ)に至らんとするを知らざるのみ」という孔子の言があります。之は、「物に感激しては食うことも忘れ、努力の中に楽しんで憂いを忘れ、年を取ることを知らない」といった意味であります。何事にも集中して詰まらぬことに気を散らすことなく、何時も精神が潑剌(はつらつ)と躍動していなくてはならないと思います。
安岡正篤先生は御著書『運命を創る』の中で、「何ものにも真剣になれず、したがって、何事にも己を忘れることができない。満足することができない、楽しむことができない。したがって、常に不平を抱き、不満を持って何か陰口を叩いたり、やけのようなことを言って、その日その日をいかにも雑然、漫然と暮らすということは、人間として一種の自殺行為です」と言われています。
不平不満によって、何らか良くなることは決してありません。寧ろ不平や不満が湧いてきた時にこそ、己の未熟さを思い一層仕事に打ち込むのです。そうした中で分からぬようなれば、頭を下げて先輩等に教えを請えば良いわけです。松下幸之助さんは「素直であることが非常に大事だ」と言われています。此の言葉の通り最初は何でも素直に受け入れてみて、与えられた仕事の意義を本当に理解しようと全身全霊を傾けて、そして簡単に諦めることなく突き詰めてとことんまでやり遂げてみるのです。
此の世に無駄な仕事は一つもありません。何故なら経営者は社員に給料を払っているのですから、給料の元を返して貰わねばなりません。社員に無駄な仕事をさせる余裕などなく、そんなことをやっていれば会社が潰れてしまいます。それがどんな仕事であれ、与えられた以上は無駄な仕事ではないのです。日々の仕事の内その大半が嫌いであったとしても、やはり自らの仕事に対しては透徹した使命感・責任感といったものを持ち、好き嫌いに関係なくやり通さねばなりません。
そうしてやり通せるのも自分の仕事の意義が分かるからであって、その中で自分として「之をやらねばならない」「之はなさねばならない」といった気持ちが、必然的に湧いてくるものです。そして次第に、之をやるのは自分自身の責務であるとの認識を深め、ひいては自分自身の天命なのだという位に自覚するようになるのです。
必死に仕事に打ち込んでいたならば、それなりのものが必ず身に付いてきます。自分自身の人間的な成長が目に見えて明らかになります。その努力に天が様々な御縁を与えてくれたり、様々な飛躍のチャンスもやってくるのです。ですから、先ずは与えられた仕事を素直に受け入れて不平不満を封印し、熱意と強い意志を持って唯ひたすらに打ち込み続けることが必要だと思います。
「一芸に秀でる」という言葉もあります。どんな仕事であれ一芸に秀でるところまで打ち込んだ人の言葉には、何とも言えない奥深さと重みそして味わいがあるものです。それ正にその人が数々の苦難を乗り越えて、一つの仕事を通じて人間的成長を遂げた証だと思います。私は、そこに天職を見つけた人の誇りを感じ尊敬するのです。
「石川啄木の有名な歌の一つに、『快く我に働く仕事あれ、それをしとげて死なんと思ふ』というのがあります。人間は、ただ生きるというだけではつまらないことで、意義あり感激ある仕事に生きなければなりません」(『心に響く言葉』)――此の安岡先生の言葉は、そのまま仕事を天職にして行く極意と言って良いでしょう。
一生懸命にやっている限り、そこに何ら一つの無駄はありません。最終的に全ては、プラスになって行くのです。但し一生懸命やらなかったらば、何もプラスにはなりません。寧ろそれは人生を無駄にしているに、等しいことでありましょう。何事においても一生懸命に取り組まねばならないのです。目の前に与えられた仕事に対し、一心不乱に取り組む姿勢を持ち続けることが大切です。
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