スズキの向かう道

岡本 裕明

鈴木修会長の太い眉毛がにっこり笑っているように見えましたが、ご本人にとってはよほどうれしかったのでしょう。自ら「フォルックスワーゲン(VW)との離婚」と表現していましたが、相手がなかなかハンコを押してくれず、離婚調停は4年にも及びました。鈴木会長は本来であれば本件が片付いてから社長職を降りるつもりでしたが、時間がかかっていることもあり、それを待たずに息子さんに席を譲りました。

ただ、この決着について様々な声があることも事実です。また、株式市場が開けた月曜日は一時、5%ほど上昇したものの終値は1%安。勿論、相場全体が安めだったこともありますが、ご祝儀の花火は一発のみだったのでしょうか?

小型車に特化し、世界販売台数は280万台で世界10位。インドと日本で販売台数の7割近くを占めるこの会社の事業戦略は儲かるところに特化するという正に鈴木商店を展開してきました。北米の学業優秀な経営者ならまず考えないであろうこの戦略が息子さんの代にかわり、どうこなしていくのか、これが非常に難しい課題になりそうな気配がします。

自動車業界の提携ブームを考えれば、何処かと結婚しないまでも「おつきあい」程度はしたいところですが、離婚したばかりの上にVWから指摘されている旧クライスラーからのディーゼルエンジン調達が提携違反とされたことに関する損害賠償問題はこれからであります。

息子がお付き合いしたい相手を連れてきても頑固おやじが「まだ駄目だ、傷が癒されてない」と言いそうな気がしないでもありません。

仮に提携をするとすれば順当なら日本企業になる公算は高いのでしょう。トヨタの声もありますが、私はダイハツを既に抱えている以上、違う気がします。考え方として自動車業界の上位を狙うのではなく、特化したマーケットを取り込んでいくという戦略の方がこの会社にはマッチしている気がします。インドネシアやフィリピン、ベトナムなどでは道路事情も考えれば小型車の市場は更に拡大すると思います。

同社がカナダから撤退したのは自動車に対する思想が全く違うことに気がついたからでありましょう。北米市場は大きく見せ、安心、安全のイメージを植え付けることが大事ですが、スズキの車はどう見ても貧弱になってしまいます。いわゆる男性が乗る車になり得ないということです。ラインアップがある中での小型車なら別なのですが、そうでない場合は難しいのであります。

とすれば、私は総販売台数を追うのではなく、東南アジアを中心に道路事情や国民性に合わせた車をそれぞれの国に提供するスタイルを究極までつき進めていくやり方もあるのではないかと思います。つまり、徹底した現地化であります。それこそ、トゥクトゥクを進化させたような、でも日本の技術や工夫が凝らされている車がお国ごとにあってもよいでしょう。

自動車のブランドはトヨタカローラのように世界戦略車という形でメーカー側が現地の細かい事情を与しないで作ってきたのが歴史の流れでありました。ところが、中国ではそれが通用しないと気がつき、日産が中国仕様の後部座席が広く、見栄えのする車を作り、成功しました。

東南アジアでは移動手段、小回り、未舗装道路でも堅固といった要素が重要なのでしょうか?スズキは他の会社に見られない経営の独立性や自由度があります。逆にその特徴を生かして安易に大手とくっつかないという選択肢も大いに検討すべきではないかと思います。私のイメージはバイクのヤマハやカワサキです。やり方次第では相当伸びしろがある会社、それが、スズキだと思います。むしろ、既成概念に囚われず、思いっきり暴れてもらいたいと思います。

今日はこのぐらいにしておきましょう。

岡本裕明 ブログ 外から見る日本、見られる日本人 9月1日付より