疑問符のついた中国の式典外交

岡本 裕明

中国の「抗日戦争・反ファシズム戦争勝利70年」の式典はいろいろな意味で注目されましたが、結果を見ると実りがどれだけあったのか疑問が残ったのではないでしょうか?

まず、この式典の真の目的がどこにあったのかですが、まさに国威そのものなのでしょう。国威とはその国が対外的に持つ威力であります。威力には政治力、経済力、金融力、統制力、軍事力、外交力、近隣影響力などなどいろいろあるでしょう。その中で特に「抗日」と冠を打った以上、戦前のみならず、日本に経済的に先を越された戦後の時代においても自分たちがその上に立つという示威とも取れなくはありません。

ところが私が思う中国の近年のピークは2008年の北京オリンピック、2010年の上海万博のころではないかと思います。それなら多くの人が国威が高まっていると認識出来た時期でありましょう。その後、中国はグローバル化の波に飲み込まれたと同時に消費の低迷、中国国内での数々の不手際、問題の対策に追われ、後手後手の印象は否めませんでした。

今回の式典はまさにその嵐の真っ只中に開催したわけですが、これは中国が時として使う視線外し政策とも取れなくはありません。この式典が歓迎ムード一杯で多くの主要国の首脳が参列する華やかなものになれば別の話でしたが、注目を浴びたのはプーチン大統領と朴大統領だけでありました。序列も習近平国家主席の隣にプーチン、朴氏の順に座りました。これが世界第二のGDPを誇る国の大々的式典でありましょうか?

ではそのプーチン、朴両大統領は実りある成果を持ち帰ることができたのでしょうか?

少なくともプーチン大統領は手ぶらで帰っています。彼はロシアから中国へのガスの販売価格に関して習近平国家主席から良い返事を期待したにもかかわらず、問題は解決できないまま終わりました。以前指摘したように中国とロシアの関係はついたり離れたりであります。プーチン大統領はメンツを大事にする人だけに心穏やかではなかった気がします。

一方の朴大統領はアメリカが訪中に懸念を示す中、式典に参列し、日中韓の首脳会議を引き出した「成果」を強調しました。アンビバレント(相反するものを同時に持つこと)な韓国の特性が見事に「花咲いた」ともいえるわけで韓国では高く評価されるのでしょう。要はどっちつかずでいいとこ取りの韓国の癖の延長だといえます。

しかし、朴大統領は大きなものを失った可能性はあります。それは北朝鮮との外交であります。北朝鮮を代表し、式典に参列したのは崔竜海 朝鮮労働党書記ですが、その席次は端の方と報道されています。また、習近平国家主席や朴大統領とも接点はなかったとされています。つまり北朝鮮を袖にした訳です。これでは北朝鮮のメンツは丸つぶれで金正恩氏は怒り狂っている気がします。

ただ、北朝鮮は今や、「お友達」がいない状態で完全包囲されたとも言えるでしょう。生かすも殺すも金正恩氏次第、という形は整ったわけでそのカードをいつ誰が切るのかというところにあります。言い換えれば中国の国威発揚で最も脅威を覚えたのは北朝鮮ではないか、とすら思えるのです。

世界はこの式典で見せられた軍事能力を分析はすると思いますが、この国の経済と外交というもっと間近に迫った問題の方がはるかに興味をそそるものではないかと思います。私は既にその焦点は習近平国家主席の9月の訪米にあると思います。そこで交わされるであろう様々な具体的問題、例えば南沙の空港建設、不正疑惑のある中国人を捉えるためアメリカ国内で無許可で活動する中国公安、中国元の切り下げ、アメリカ国債の売却、経済問題全般に北朝鮮問題、ロシアとの関係、日中韓首脳会談のことなど山積しています。

そして今度の会談が前回のような蜜月のイメージを植え付けるような感じになりそうにもないことも誰もが思っています。それは習国家主席の複雑で難題への緊張感でもあるとも言えそうです。

少なくともこの式典で中国の株式市場がお休みとなり、9月7日まで開かないことは北米が新学期入り前の三連休を控える中、夏休みの最後の安ど感を提供してくれたとは言えそうです。

今日はこのぐらいにしておきましょう。

岡本裕明 ブログ 外から見る日本、見られる日本人  9月4日付より