稼働が間近のマイナンバー制度:「軽減税率 vs 給付付き税額控除」論争に終止符を

先般(2015年9月3日)、預金口座を結びづけなど、マイナンバー制度(税と社会保障の共通番号)の利用範囲を広げる改正法案が衆院本会議で可決・成立した。

今年(2015年)10月にはマイナンバーを記載した「通知カード」の郵送、2016年1月以降はICチップ付きの「個人番号カード」の受け取り、2017年1月は個人専用のインターネットサイト「マイナポータル」の運用が始まる。
 
また、マイナンバーの利用・開始は2016年1月からである。マイナンバー制度が稼働すれば、政府は個人の所得の高低を把握しつつ、給付付き税額控除といった施策をはじめ、きめ細かい対策を打つことが可能となる。にもかかわらず、以下の報道のように、軽減税率を巡る議論が政治的に浮上してくるのは奇妙である。

自公、軽減税率協議を来週後半にも再開(日本経済新聞2015/9/2)

 自民、公明両党は2日、消費税率を低く抑える軽減税率の導入に関する協議を来週後半にも再開する方針を固めた。税率を軽くする対象品目や財源の穴埋め策など制度の骨格を議論する。2016年度税制改正大綱に反映させるため、年末までの決着をめざす。
 自民党の野田毅税調会長と公明党の北側一雄副代表が同日、都内で会談し、協議再開を確認した。軽減税率をめぐっては対象品目を多くしたい公明党と、財源確保のため品目を少なくしたい自民党との間で協議が難航し、6月に中断していた。


そもそも、日経ビジネスオンラインの以前のコラムでも強調したように、軽減税率の導入で消費税の逆進性は解消しない。むしろ、軽減税率の導入はどの財サービスを軽減するかを巡って政治的な対立や新たな政治的利権・訴訟を生み出す可能性が高い。

このため、イギリスのノーベル経済学賞受賞者であるジェームズ・マーリーズ卿らが作成した税制改革指針である「マーリーズ・レビュー」(Mirrlees Review)では、単一税率の付加価値税を導入しつつ、低所得者対策は給付付き税額控除で対応する方式が最も望ましいと提言している。

マイナンバー制度の稼働は間近に迫っている。もはや、「軽減税率 vs 給付付き税額控除」論争に終止符を打ち、マイナンバーの利用に関する議論に政治的な資源をシフトしたらどうか

(法政大学経済学部教授 小黒一正)