弱まる東京株式市場の主導性

このところの東京株式市場を見ていて「ゴムまりのような軽さ」を感じているのは私だけはないでしょう。2013年の全員参加型で買い方の力強さ、そして今年前半には業績の上方修正が相次ぎ、20000円や20800円のベンチマークをヒットし、次のターゲットに向けて上昇するだろうと多くの専門家は期待を胸にしました。個人投資家や株に無縁だった若い人たちも少しずつ、興味を見せ始めていただけにこの乱高下で「高い参入障壁」のイメージを植え付けてしまいました。

特にこの1週間ぐらいの動きは今までのように「中国のせい」にできない日本独自の展開となっています。先週の世界の株価の動きでも日経平均は突出した下げを記録し、今週も週明けにぐずついた後、水曜日の1300円強の急騰です。

また、このところ目につくのは前日比でプラス圏とマイナス圏を激しく行き来し、500円、700円といった幅で方向感のない動きをすることでしょうか?ラスベガスでギャンブルをしているわけではなく、3600社の上場会社が同じ方向を向いているわけでもありません。

一つの理由がHFTと称するコンピューターの高速自動売買システムが市場をかく乱していること、もう一つは日本の株に興味が無くなった外国人投資家が作り出す主役不在の相場ではないかと思います。

中国の株価も乱高下します。これは市場が個人主体で世の中のうわさであたふたし、多くの素人投資家を市場から退場させたことが原因です。よって、政府がちょっと買い支えをすればポンと上がる様な状況になっています。これ以上下がるかどうかは分かりません。売り物が枯れつつあるように見えます。「閑散に売り無し」です。

一方の東京市場。外国人投資家とHFTが作り出す市場は中国上海市場とは真逆の個人が主役にならないマーケットであります。そこには適度な市場の大きさを理由に世界の資金が潮の満ち引きのようなものを演じています。8月の外国人投資家は実に1兆1500億円も売り越しました。これでは東京市場で個人投資家を育むことが出来ないでしょう。東証の大いに反省すべき点です。

東証はNYに負けないよう高速トレードシステム、アローヘッドを導入していますが、結局、瞬きする間に売り場買い場が動いていくそのスピードに一般人はもはや太刀打ちできません。

もう一点、外国人が東京市場から資金を引き揚げた理由が何か、であります。勿論、中国市場の引き金はありましたが外国人機関投資家は上海市場には資金をいれていません。つまり、そこで損をしたから利益の出ている東京で売却し穴埋めするというストーリーはないでしょう。

私は安倍首相が主導する経済政策に一つのピーク感が出てきたのではないかと思います。昨年あたりまでは首相も外遊に次ぐ外遊で日本市場を売り込みました。その効果は確かにあったと思います。が、今年に入り、アメリカ議会での演説、戦後70年の談話、更には秋に実現するであろう日中韓首脳会談といわゆる政治的活動が多くなりました。その上、国会は安保法案に集中したため、他の案が廃案になるため、経済へのパンチ力が無くなってしまった、という気がします。一時期盛り上がっていたカジノ法案もまたもや先送りです。

つまり、国を挙げての経済のニュースがない、ということでもあります。そんな中、昨日の棒上げの要因の一つは安倍首相の日本への投資呼び込みの書簡であります。結局、そんな小さなことに飛びつき、レバレッジが効くのが今の東京市場です。

もう一つの株価上昇要因であった為替もピークから5円程度円高水準である120円前後になっています。企業業績を図る上での為替の水準としては問題ないのですが、株式市場への呼び水にはなりません。それについても安倍首相が円安の姿勢を示しただけでポンと株価が上がる新興市場のような軽さを感じます。

個人的には東芝問題はボディーブローのように効いていると思います。海外では「アジアへの不信感」というのは口に出さないまでもずっとあります。日本だけ違うと言いたいですが、日本でも唖然とするような事件が時々起るわけです。年金機構の情報漏えい事件も実にしまりのない状況を露呈してしまいました。こういうイメージは海外では「やっぱりアジアの国だね」ということになってしまうのです。

東証が真の投資を呼び込むための市場育成をするよう方向感をきちんと出すことが大事でしょう。株式市場とは何か、その成長とは何かを考えれば、アローヘッドが主役とはならないのですが、その辺に気がついていらっしゃらないのかもしれません。

東京市場はまだ大きくぶれる要素を含んでいるように思えます。

今日はこのぐらいにしておきましょう。

岡本裕明 ブログ 外から見る日本、見られる日本人 9月10日付より