今週のメルマガの前半部の紹介です。
日本最大の暴力団組織である山口組の分裂騒動が大きな話題となっています。おひざ元である神戸の神戸新聞社サイトなんて、日によってはアクセスランキングの上位がすべて組関連のニュースだったりするほどなので、その注目度の高さがわかるでしょう。
時を同じくして維新の会も分裂することとなりました。同じ関西の話でもあり、多くの人は二つの分裂劇に通ずるものを感じている様子。ただ筆者としては、むしろこちらの報道とセットで読むことで時代の象徴的なものを感じましたね。
筆者はもともと、アウトローの組織や人事制度に注目しています。というのも、彼らは法律の枠外の存在なので、ある意味、規制なんて関係無しに時代の流れに沿って動くことが可能だからです。「選挙で労組の票が欲しいから派遣社員の規制を強化します」とか「年金支給開始年齢引き上げるから65歳まで雇うべし」とか言ってたかってくるアホがいない恵まれた業界なわけですね。
なぜ、日本最強のヤクザは分裂したのか。なぜ、今このタイミングなのか。そして、彼らはどこへ向かうのか。彼らの進む先は、実は多くの日本企業にとっても他人事ではないというのが筆者の見方です。
年功序列組織が一気に流動化する瞬間
年功序列型の組織と聞くと、処遇が上がることはあっても下がることはなく、安定した人生設計が出来るとイメージする人が多いでしょう。過去の年功に比例して処遇が決まる仕組みなので当然ですね。「今期の評価」だとどうでるかわからないので不安ですが「積み重ねた年功」は不動なので見通しも安定しているというわけです。
ちなみに、暴力団というのもまた、典型的な年功序列型の組織です。親分である組長をトップに、若頭や若中といったポストが連なり、親分から直に盃を貰えば“直参”という二次団体ポストが貰えます。抗争相手をはじいて15年間ムショでお勤めをした後で直参に昇格させてもらった盛力親分のように、そうしたポストは年功に対して与えられることになります。
山口組のような広域暴力団であれば、直参は70人ほどですが、各直参がそれぞれ二次団体、三次団体を率いる現役の親分であり、小さな年功序列型組織が何十個も積みあがって出来ているのが、巨大組織山口組ということになりますね。要するに年功序列型組織の集合体というわけです。
そして、この業界における年功序列的価値観は、一般の日本企業などとは比較にならないほど強烈です。というのも、そうした年功序列的価値観は業界全体で大事に共有されているためです。たとえばどこかの親分が「うちの〇〇を絶縁しました」といった回状をよその組織にも回した場合。その他の暴力団が絶縁者と仲良くしたり、まして拾って組員にすることは事実上タブー扱いとされています。親分=年功序列上位者ですから、要は年功序列的な秩序は、そこらの企業な企業よりもはるかに絶対的に守られているわけです。
上司と喧嘩しただの逆らっただのという話はよく聞きますが、それで業界永久追放になったなんて話は聞いたことありませんからね。
さて、そうした年功序列型組織ですが、ある状態に達すると途端に安定性を失い、一気に流動化することとなります。それは「成長が頭打ちになること」です。
報酬の取り分をどう分配するかを決めるのが評価制度の肝ですが、毎年増えたパイの分だけ広く薄く分けていく年功序列制度の場合、評価制度なんて適当でいいんですね。まあ明らかに功のある人は長期ではそれなりに出世させないといけませんが、とりあえず今期の評価はどうあるべきかなんてことに頭を使わなくてもいいわけです。
ところが、成長が頭打ちになると、歯車は逆転し始めます。パイが増えないのだから「増えた分の分配」ではなく「今まで配ってきた分の再分配」をやるしかありません。要は「不利益の再分配」ですね。こうして日本企業は、今までろくすっぽ取り組んでこなかった「誰がどれだけ貢献したか」とか「そもそも、各人の担当業務は給料に見合っているのか」といった問題に真正面から取り組まざるを得なくなったわけです。やれ成果主義だ目標管理だとここ20年くらい言い続けてきたのは、その試行錯誤の一環というわけです。
ようやく昨年くらいからですね。年功給の全廃やら管理職ポストの抜本的な見直し、縮小といった「不利益の再分配」に日本企業が本腰を入れるようになったのは。経営危機に直面中に「管理職ポストを半減させます」とリリースしたシャープも、もちろん不利益の再分配に乗り出した代表例です。
さて、ヤクザ業界の方はどうでしょうか。経済停滞にくわえ、暴対法の影響で一般企業以上に景気が悪いと言われているヤクザ業界です。企業以上に抜本的な改革が必要なはず。でも、筆者はそもそもあちらの業界では「不利益の再分配」は不可能だと考えています。年功の積み重ねを否定することは、彼らの秩序を真っ向から否定することにつながりかねないというのが理由ですね。
以降、
“ヤクザ業界”で不利益の再分配が出来ないワケ
これからの“山口組”が要注目!だと考えるワケ
Q:「青年海外協力隊はキャリア的にマイナス?」
→A:「落とされる人は別の理由があるんでしょう」
Q:「生涯独身でいることは不幸でしょうか?」
→A:「やったことないから分かんないですけど、独身の定年退職者を見るに……」
+雇用ニュースの深層
東芝の粉飾は利益重視の副産物か?
利益偏重姿勢が原因だ的な報道が散見されますが、なんで赤字事業をペナルティ覚悟で抱え続けるのが利益偏重なんですかねぇ・・・むしろ朝日誤報問題と同じムラ社会的構造が根っこにあるものと思われます。
落ちこぼれ先進国の地位から脱却しつつあるイタリア
90年代くらいまで「先進国で一番借金が多くて経済もダメな落第生」と言えばイタリアでしたが、近年は懸案だった労働市場改革に乗り出すなど、テスト前夜になって猛勉強する受験生のごとき頑張りを見せております。
他。
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編集部より:この記事は城繁幸氏のブログ「Joe’s Labo」2015年9月10日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった城氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方はJoe’s Laboをご覧ください。