日本が再びインフレ率の低下に悩んでいます。日本だけではなく、欧米のほか、新興国を含め、全般的に広がっています。また、ブラジルなどでは通貨下落に伴い輸入物価が上昇し、スタグフレーションとなりつつあります。
景気低迷とインフレ、もう一度考えてみたいと思います。
インフレとはモノを欲しいと思う人が作る側の期待や能力以上のトレンドを形成する場合、価格上昇が発生します。例えば日本で今、最もインフレが進んでいるのがホテルの価格でしょう。統計ではこの3年で3割以上上昇しているようですが、その理由は足りないホテル、とも言えるほど外国人を中心とした需要に対して部屋数が足りないのであります。
近年の日本に於いて特定分野のブームに伴うインフレを別とすればホテル、宿泊施設という比較的大きな分野で3割もの価格上昇は珍しいでしょう。また、ホテルはすぐに作れるものではないですし、業界で我先に新築に走るかといえば建築費高騰もあり供給は抑えられた状態が続くと見込まれています。
そのホテルの価格上昇は元をただせば増大する訪日外国人であります。とりもなおさず、人が増えれば需要は増大し、一定の価格水準を保つことが出来るというわけです。ではなぜ、中国はインフレにならないのか、といえば雨後の筍の様に作り過ぎた、つまり、需要があると思い供給過多が顕著に進んだためであります。それは不動産に留まりません。自動車メーカーからスマホメーカーまで一体いくつあるのか、という状況であります。一攫千金を狙っているのでしょうか、正に優勝劣敗であります。
これにグローバル化の波が押し寄せます。その典型は石油価格でありましょう。石油はOPEC加盟国が価格の主導権を握っていました。ところが非加盟国であるロシアは経済制裁もあり、石油の産出量を大幅に増やし、過去最高水準の産油を維持しています。一方のアメリカはシェールオイルの産出コストが改善気味であることを理由に産油量が減る傾向が見られません。つまり、かつての輸入国であったアメリカが自前主義を取ればそれまでアメリカ向け原油の最大の輸出国であったカナダはその原油の新たなる行き場を見いだせねばなりません。
政策や国家の事情などにより今や供給をコントロールできる時代ではなくなったということなのでしょうか。OPECが機能していた時代とはある意味、価格コントロールを通じて需給バランスを保つ貴重な役割を果たしていたとも言えたのです。
カルテルなど価格の一定の支配は厳しく取り締まられます。中国日産の事業体、東風日産はその販売価格維持の圧力を疑われ、独禁法違反で23億円の罰金を科せられました。これは逆に言えばどうやっても需要側が価格イニシアティブを独占しているともいえ、かつての供給側の価格支配能力が大きく劣った力関係の逆転劇ともいえないでしょうか?
つまり、需給ギャップを埋められず、モノの価格がずるずる下がるもう一つの理由は需要側に移った価格支配権にあるともいえる気がします。
供給側がその支配力を示そうとする一例として銅の生産があります。銅は生産能力が高まり過ぎ、今や野菜一山よりも安いわけですが、ようやく業界でその生産調整をする機運が高まり、一部では生産を一年半程度止めるといった動きも出始めました。これは業界全体がある程度協力しなければ生産調整をした会社だけが損をすることになり、その動きに注目しています。
日本の場合、移民は増えませんが、外国人労働者は今後、急速に増えることが予想されます。それはこれまでの就労ビザの最長期間を5年から8年に延ばすことで労働力不足に悩む日本を助けるほか、就労予定者が現在の212万人から500万人程度まで増やすというのです。短期間で300万人も増えれば住宅需要、食の需要を始め、一定の効果をもたらすことが期待出来るでしょう。
モノの価格を支配する要素は非常に多く、そのエレメントは時代と共に重きが変わってきます。経済学が劣っているのはそのあたりを十分予見できず、割と後追いの学問になってしまっていないでしょうか?
物価の先行きは正に読みにくい、というのが正直なところです。
今日はこのぐらいにしておきましょう。
岡本裕明 ブログ 外から見る日本、見られる日本人 9月14日付より