消えるオイルマネー

オイルマネーという言葉は死語かもしれないと思うほど全く聞かなくなりました。73年のオイルショック以降に生まれた言葉ですが、要は中東の石油産油国の儲けた巨額マネーが世界のあちらこちらに投資を通じて影響を及ぼしてきたことを指します。

昔、若い女性に結婚したい相手のタイプは、と聞けば福山雅治さんではなくて、サウジの王様が答えでありました。サウジの王様がホテルに泊まるときはワンフロア借り切り、部屋の調度品は全部、自分のモノにしつらえるという嘘か本当か分からないような話もありました。

そのオイルマネーが急速に逆回転しているようです。長期にわたる石油価格低迷、更にアメリカのシェールオイルの産油コストが技術革新で下がり、イランへの制裁解除で同国からの原油輸出も再開されます。ロシアはソ連時代以降最高レベルの産油水準を保ったままであります。それを受けてOPECは減産を決められません。
つまり、本当は枯渇するはずだった原油の供給が止まらないのであります。

一方の需要は中国経済の減速にのみならず、アメリカの金利引き上げ懸念で新興国経済が打撃を受け、一様に盛り上がりません。自動車は、といえばエコ化が進み、ガソリンだけでは商売にならない日本の石油会社が合併を繰り返しています。

サウジアラビアは国家予算を全うするためには現在の石油価格では収支が合わず、かつての貯金の取り崩しを行っているわけですが、どうもそれすら十分ではないという感じに見えます。

日経によると29日の急落の際、目立ったのがサウジ通貨庁が大株主として顔を出す銘柄だったようです。また同通貨庁は世界から数百億ドルを引き上げたと噂されています(FTより)。更にブルームバーグによるとフォルックスワーゲン社の大株主であるカタール政府系ファンドは同社の株式の評価損が10日間で48億ドルに上ったと計算されています。その上スイスの資源会社グレンコアでも10数億ドルの評価損が発生しているとのことです。(但し同社の株式はその後、急速に値を戻しています。)

売っているのは株式だけではなさそうです。バンクーバーのランドマークホテルの大半の所有権を持つ中東系ファンドは長期保有が原則だったにもかかわらず、保有わずか2年程度で手放すと報道されています。つまり、世界で進む株安や不動産への影響の原因の一つには原油安がもたらすオイルマネーの逆流が引き起こしたとも言えそうです。

実は私は心配していることがあります。それはオイルマネーと並んで世界中に投資(資金逃避を含む)を続けてきた中国マネーの行方であります。例えば上述のホテル不動産の場合は中国マネーがそれを購入する見込み、と報じられています。中国系は株式よりも不動産が好きですからそちらへマネーが流れていますが、中国からマネーの逆流でも起きたら世界の不動産はひとたまりもない、ということになります。

それにしてもオイルマネーはいったいどこに消えていくのでしょうか?砂漠の熱気と共に蒸発してしまうのでしょうか?資源国のスタンスは往々にして努力しないと言われています。昔、社会学の授業でロシア人と東南アジアの人はどちらが働くでしょうか、という設問がありました。答えはロシア人でその理由は働かないと体を温めるウォッカが飲めないが東南アジアなら凍死もしないし、木をゆすれば果物が落ちてくる、というものでした。ちなみにドバイというアラブ首長国連邦の一国は石油が出ません。故に経済のエンジンを高める努力をした結果、あれだけの都市を作ることが出来た、とされています。

消えるオイルマネーの観点で個人的に最も注目しているのは中東の航空会社であります。あれだけ飛行機を発注し、高いサービスを提供するからくりは何でしょうか?多分、経営的にはあり得ない無理がかかっているはずです。もともと南回りの航空会社が有利になるにはシンガポール航空の様なサービス依存型にするしかありません。普通のビジネスマンならそれより早く着くルートである北回りを選ぶでしょう。

オイルマネーの行方次第ではまだまだ影響は残ると思います。

今日はこのぐらいにしておきましょう。

岡本裕明 ブログ 外から見る日本、見られる日本人 10月2日付より