ニュートリノが秘める歴史と「私」 --- 長谷川 良

スウェーデン王立科学アカデミーは6日、今年のノーベル物理学賞を素粒子「ニュートリノ」に質量があることを発見した東京大学宇宙線研究所の梶田隆章所長(56)とカナダ・クイーンズ大学のアーサー・マクドナルド名誉教授(72)の2人に受賞したと発表した。

大村智・北里大特別栄誉教授が5日、今年のノーベル生理学・医学賞を受賞したばかりだ。日本人学者が2日連続、ノーベル賞を受賞したことになる。ご本人とそのご家族はもちろんのこと、われわれ日本人にとっても感動的な快挙だ。

ところで、当方は梶田所長の業績である素粒子ニュートリノの質量発見といわれてもあまりピーンとこないが、宇宙の80%以上を構成しているといわれる暗黒物質の謎に限りない好奇心を持っている人間だ。
幸い、梶田所長の功績を理解できないのは当方だけではないらしく、素粒子ニュートリノの質量について共同通信が分かりやすい小解説記事を送信していた。以下、紹介する。

宇宙に存在する物質のうち、最も基本的な粒子の一つ。電荷を持たず、どんな物質もすり抜ける。「電子型」「ミュー型」「タウ型」の3種類がある。地球に飛来する宇宙線が大気とぶつかってつくられるほか、太陽内部の核融合や、地球内部のウランの自然崩壊などで発生。原発からも大量に生み出される。宇宙誕生時にできたニュートリノも宇宙を漂っており、地上でも毎秒1千兆個以上のニュートリノが私たちの体を通り抜けているとされる。

当方は「宇宙誕生時に出来たニュートリノも宇宙を漂っており、地上でも毎秒1千兆個以上のニュートリノが私たちの体を通り抜けているとされる」という個所に驚きと感動を覚えた。いまこのコラムを書いている時もニュートリノが当方の体を通り抜けているかもしれないのだ。こんなことを書けば、「文科系人間は感動する場所が俺たちとは違うな」と、理科系の人からため息交じりの冷笑がこぼれるかもしれない。

それを覚悟で続きを書く。自ら質量を持ちながらどんな物質もすり抜け、人間の体も通り抜けるのだから、ニュートリノは文科系の人間にとって一種の幽霊のような存在だ。ただし、幽霊の場合、特定の霊能者しかその存在をキャッチできないが、素粒子ニュートリノの場合、梶田氏は素粒子観測装置「カミオカンデ」を利用して大気中のニュートリノを観測し、ニュートリノが質量を持つていることが証明されたわけだ。梶田所長は霊能者を動員せず、「カミオカンデ」という観測装置を駆使して発見した。だから、幽霊の存在とは違って、誰もがその存在を信じることができるわけだ。

ところで、質量を持ち、観測可能なニュートリノには、砕けた表現をすれば、必ず一定の性格があるはずだ。だから、ニュートリノが当方の体を通り過ぎる時、当方に何らかの影響を与えると考えても間違いはないはずだ。一種の光合成、化学合成、電気合成のような作用を考えて頂きたい。
仮説だが、宇宙創造時に誕生したニュートリノが21世紀を生きている当方の体の中を通過したとする。当方はその瞬間、宇宙創造時の秘密と接触したことになるのだ。インスピレーションや直感というのは、ニュートリノがもたらした作用ではないだろうか。例えば、「この場面は昔どこかで見たことがある」といった体験をする人が結構多い(当方はそれを“ニュートリノ合成”と勝手に名付けている)。

当方は聖書に関心があり、研究しているが、66巻から構成された聖書には多くの謎がある。例えば、ノアの洪水審判、モーセの荒野路程、そしてイエスの十字架問題などだ。ニュートリノはノアの時代にも存在していた。ニュートリノの中にイエスの体を通過したラッキーな奴も存在したはずだ。卑近な表現をすれば、そのニュートリノに聞けば、当時の事情が少し理解できるのではないか。

歴史や時代は時間の経過と共に消え失せ、歴史書に僅か留まるだけだと考えてきたが、無数のニュートリノが歴史を目撃し、時代を記憶し、そして伝搬しているのではないだろうか。そのニュートリノに接触するということは、歴史と時代に再会することを意味するはずだ。その延長線にはタイムマシンが考えられる。TBS日曜劇場「JIN仁」の主人公の医者のように、現代からひょんなことから江戸幕末時代に行くこともできるのではないか。歴史は消えず、ニュートリノに記憶されているからだ。

いずれにしても、梶田所長の素粒子ニュートリノの質量発見は単に理科系の人間の知的好奇心を刺激させるだけではなく、当方のような文科系人間にも限りなきロマンを駆り立ててくれる。梶田教授のノーベル賞受賞を心から喜びたい。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2015年10月8日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。