うつ病100万人時代-本当はがんより怖い?

うつ病の対人関係

WHOはがんより怖いと訴えている
女優の川島なお美さん、ロック歌手のシーナさん、俳優の今井雅之さん、今年は著名人ががんで亡くなるニュースが続きました。がんの怖さを改めて実感している方も多いことでしょう。
しかし、あまり知られていませんが世界保健機構(WHO)はある心の痛みをがん以上の人類の健康に対する脅威と訴えて注意を呼びかけています。その心の痛みとは「depression」。日本ではうつ病や抑うつと訳されています。

うつ病100万人時代
今、世界的にうつ病に悩む人が増える傾向にあります。日本では特に深刻ですでに「うつ病100万人時代*」を迎えました。日本の人口比で考えれば100人に一人というわけですが,生涯罹患率(一生の間に一度以上罹患する割合)は日本では15%前後と言われています。7人に一人と考えると,実は他人事ではありません。

心理相談の現場では「自分には関係ない」、「危ない人がなるもの」と思っていた方がうつ病に陥っているケースが増えています。自分は大丈夫という過信は必要なケアにつながるチャンスを遅らせます。そして、うつ病とわかった時のショックをより深くして、回復を妨げる一因になります。もはや「うつ病は誰でもなりえる」という認識に立って、予防や対策を考えるべき時代なのです。

たかが気分の問題?いえ,がんより苦しいかもしれません
「うつ病の怖さはがん以上」といわれる理由は

1.自分という人生を呪い続けていつまでも苦しんでしまう
例えば,目を覚ました瞬間から自分がこの世に存在していることが悲しくて,涙が止まらなくなります。自分は人に負担や迷惑をかけるだけ,みっともないだけ…そんな気持ちがずっとずっと続きます。

2.人間関係や社会的立場を壊しやすい
例えば,いつものあなたのお人柄を期待していた人たちは,あなたの態度がいつもと違うことにショックを受けます。ページトップのイラストはそのイメージです。
こうして他人はあなたに対して距離を取るようになります。家族は嘆き悲しんで,ご家族もうつ状態になっていきます。お仕事もご家庭も人間関係も失ってしまうことがあるのです。

3.自殺につながりやすい
「自分がいないほうがいい」と思えて自分の存在を消したくなります。そして,孤独や孤立,自分を呪いつづけることは本当に苦しいことなので,消してしまえば苦しみから逃れられる…と本気で死を考えるようになります。20%前後は本当に自殺してしまうと言われています。

参考記事1リミー
参考記事2ヘルスケア大学

他にも重大な苦しさはたくさんありますが,これらが主なものと言えるでしょう。

うつ病自殺という壮絶
自殺については,たとえば先日がんでなくなった女優の川島なお美さんは最後まで「女優・川島なお美」として生き抜き,自分を大切にしながら,人に惜しまれていると実感しながら逝きました。
参考記事:川島なお美さん
しかし,うつ病で自殺した場合は自分という存在を呪いながら,自分の死を惜しむ人々の気持ちも喜べないまま逝くことになるわけです。人生の喜びも,人との絆も,そして生きていた意味さえも,全て失いながら逝くことになるのです。
日本の自殺者は年間に約3万人ですが,そのうち約60%強** がうつ病だったと推計されています。このような人生の最後を迎える人がこんなにいるとしたら,そしてそれが自分になるかもしれないとしたら,あなたは「うつ病なんて危ない人の“病気”だよ。自分には関係ないよ。」と言っていられるでしょうか。

うつ病の「予防」・「早期発見・早期対応」
がんは確かに怖いです。ですが,その怖さは十分に認知されつつありがん検診やがん予防に関心をもつ人が増えてきています。早期発見,早期対応が功を奏するケースもあります。
しかし,うつ病の怖さは十分に認識されていないことが怖さの一つです。「自分がなるはずがない」という思い込みから,人生や社会生活がかなり崩壊するまで自覚してもらえないことも多いのです。
しかし,「風邪かも…」と思ったら気軽に病院に行く人でも,「私,何か変…,いつもの自分じゃないかも…」と感じて精神科を受診することは難しいようです。気分的なハードルが高いようですね。そこで,まずは臨床心理士に相談してみるのも一つの方法です。

臨床心理士の仕事
これまで臨床心理士は精神科医と比べると存在が認知されていませんでしたが,心の痛みや生き方の問題を軽くする日本の主要な専門職です。「reme(リミー)」というサービスのように,いつでも気軽に臨床心理士とつながれるという画期的なサービスも10月10日から始まりました。

臨床心理士は病気だけに注目することはしません。まずは,あなたの人生に注目し,あなたという存在を大切にします。
あなたの人生に医師の援助が必要なら受診をオススメすることもありますが,あなた自身を,あなたとご一緒に大切にする専門職です。少しでも「いつもの自分じゃないかも…」と思ったら,力を借りてみて決して損はありません。ぜひ,臨床心理士にアクセスしてみてください。

あわせて読みたい
reme:一人で悩む全ての人に

*厚生労働省平成23年2月24日地域・職域連携推進事業関係者会議資料から気分障害100万超え(単極性うつ病約700万,双極性障害約100万,気分変調症およびその他約200万)
**同上資料,うつ病46%と併発可能性の高い薬物およびアルコール依存18%の合計

【執筆者】
sugy

杉山崇
神奈川大学教授
臨床心理士、1級キャリアコンサルティング技能士
公益社団法人日本心理学会代議員
精神科、教育委員会、企業メンタルヘルス事業所などで20年余り心理職を務める。
研究者としてはうつ病の対人関係と心理療法の研究で国費助成を20年弱得ている。
「心理学でハッピーになるお手伝い」を目指して、yahooニュース,mocosuku womenなどでも「使える心理学」を配信中!

最新著書
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