突然の偽造の嵐

岡本 裕明

一体どうなってしまったのだろう、というのが素朴な疑問です。

フォルクスワーゲン問題に続き、昨日は日本で二つの偽装が発覚しました。三井不動産の傾いた横浜の建物は杭が支持層に届いていないことが判明、また、あの東洋ゴムは三たびの偽装が発覚し、JRなどに納めた防振ゴム87000個に強度不足が確認されました。

フォルクスワーゲン問題については問題の規模からメキシコ湾で原油流出を起こしたBP(ブリテッシュ ペトロリアム)と比較されます。BPのケースも莫大な費用と社会的制裁を受けたものの、それは事故である点に於いて会社存続と経営への信頼は別次元でありました。しかし、VWのケースは会社ぐるみの偽装を認めており、相当数の幹部が知っていたのにもかかわらず、知らんぷりで長年ディーゼルエンジンの車を売り続けていたところに悪意があります。いずれ、会社解体というシナリオもあっておかしくないと思います。

但し、VWの場合は主要株主構成にニーダーザクセン市が存在します。雇用を守るつもりの株主権限を振り回していたわけです。今回の事件でとんでもない影響を受ける羽目になってしまいましたが、同時に今後、注目されるリストラについてやりにくい相手となってしまいます。政府が特定目的で私企業を支配するスタイルはフランスも取っています。例えば日産の親会社であるルノーではフランス政府とのガチンコ関係で経営的に箍をはめられた形なのですが、裏を返せば、政府がこのような経営リスクをとるということは多分、想定外であったのではないでしょうか?

日本での偽装問題は歴史的に散発しており、姉歯の耐震強度偽装問題などという社会問題化したものもありました。今回の横浜で起きた三井不動産グループが販売、三井住友建設が施工したマンションの傾き問題は二次下請けの旭化成の関連会社の偽装でありました。偽装の詳細は今後、出てくると思いますが、10年前の施工といえばデフレ下で建設業界も苦しんでいた時です。通常、繁忙期に手抜きをするということはあり得るのですが、苦しかった時に手抜きは考えられません。

一般的に建物が10年も経って傾いてきたというのは構造上の問題として割と珍しいと思います。海外でも構造補償は10年ありますが、適用されることはまず聞かず、あったとすれば余程の手抜きで傾いたり崩壊しますがそれは設計瑕疵か施工ミスのどちらかでありましょう。三井不動産は地震による傾きと思っていたとのことですが、その場合、当該地の地盤が沼地や湿地の埋め立てなどそれなりの因果関係はあるものです。ましてや震度7でも大丈夫、と十分な調査もせずにそのような発表をしたのは大手としては手落ちだと責められても致し方ないと思います。

東洋ゴムのケースは07年の断熱パネル、今春の免震ゴム問題に次いで三度目になり、特に免震ゴム問題はまだ記憶に新しいぐらいです。記者会見で「免震ゴム問題で再発防止を誓う中、許されざる行為であり、会社として重く受け止める」としており、「技術者の倫理意識が欠如していた。コンプライアンスの枠組みは作ったが、魂が入っていなかった」とする言葉に重要な意味がある気がします。

私が建設会社に入社したばかりで現場勤務の時、いくつかの現場で安全担当を命ぜられました。これは正直、地味で誰もやりたがらない業務でした。現場の技術者は事務屋にやらせておけ、という姿勢でしたし、支店レベルの定期検査の立ち合いも担当し、現場の小さい事故の労災関係の処理も全部押し付けられました。

何処の会社の社員も本流の仕事に興味があるものです。利益につながり、ヒーローになれる仕事をやりたがるのは人の性でありましょう。その結果、もっと大事にしなくてはいけない部分が欠け落ちている、これが今回の三つの偽装に共通した問題ではないでしょうか?

その上、世の中、規制にルールだらけで働く者の肩身はドンドン狭くなります。会社はがんじがらめにしてしまい、それが故に逸脱してしまう、とすれば同様のケースは今後、いくらでも出てくるでしょう。それを取り締まり、管理を厳しくすればするほど逆効果になるリスクも考えなくてはいけないのでしょう。悩ましい問題です。

では今日はこのあたりで。

岡本裕明 ブログ外から見る日本、見られる日本人 10月15日付より